ベビーパウダー山崎

わが愛の譜 滝廉太郎物語のベビーパウダー山崎のレビュー・感想・評価

わが愛の譜 滝廉太郎物語(1993年製作の映画)
4.5
古城に入っていくキャメラがピアノを弾いている鷲尾いさ子に近づいて映画が始まり、風間トオル(滝廉太郎)に託された「憾」を弾く鷲尾いさ子を残してゆっくりと遠ざかるキャメラが古城を映して映画は終わる。風間トオルも鷲尾いさ子もそれほどうまい役者ではないと思うが、至極魅力的に見えるのは偏に澤井信一郎の才能。安易に寄らない、的確な場所に配置した役者の全身を映し慎重に芝居をつけていく。騒がせないし喚かせない、だからといってぽつりぽつりとつまらない日常(会話)をただ映しているわけでもなく、夜の大波のようなダイナミズムに溢れている。漫画的、ドラマ的な演出から最も離れた地点で映画を撮っている作家。
後半のドイツ留学の画はジョルジュ・スーラの絵画みたいだった。澤井信一郎のこれも「別れ」(死)の映画。音楽家の生涯を描く、まったくアプローチは違うがケン・ラッセル『恋人たちの曲/悲愴』との二本立てとか最高。