ジュライ

ベニーズ・ビデオのジュライのレビュー・感想・評価

ベニーズ・ビデオ(1992年製作の映画)
3.2
観る側に非常に精神的余裕を求めるという意味で、いかにもハネケっぽい作品。
気分が落ち込んでるときは観たくない内容だし、「間」を一切はしょってくれないあたりも焦れったいし。
スプラッタ映画やショッキングな映像をわりと好んで観る身としては、ハネケに「お前のことだよ」と言われてる気がして、ちょっと居心地悪かったです。

殺意も悪意も特になく、無軌道なわけでもなく、取り憑かれたようにというのでもなく、漠然とした好奇心で少女を射殺した主人公。
少女に予想外に騒がれてしまったことに狼狽えていることからも、サイコパスとかいうより、目の前の出来事に脊髄反射的に行動してるだけの昆虫に近い印象を受けました。
殺人の直後にヨーグルトを食べたり、かと思えば丸坊主にしたりと行動がその場その場の思いつきでしかなくて、視野狭窄だし、中・長期的展望もない。
とはいえ丸坊主にしただけで親に叱責されるのも理不尽な話だなと思ってたら、「強制収容所みたい」だからなのね。ヨーロッパっぽい理由。

主人公がドアを開けっぱなしにしていることが多いのも、そもそもはなから両親を信用していないことの表れなのかなと解釈しました。
そんな両親の破滅が目的だったわけではなかったにせよ、破滅させられる機会が訪れたからとりあえず破滅させてみた、みたいな。女の子をとりあえず殺したのと同じように。

保身に走ったり取り乱しかけたりする両親は、一見主人公よりは良くも悪くも人間らしくは見えるけど、ダイニングの壁に隙間なく装飾品が飾られてるのも異様で、一家のからっぽな精神の埋め合わせみたい。

でも遺体の処理は森か山にでも埋めたほうが早いんじゃないだろうか。
ジュライ

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