kyoko

こんなに近く、こんなに遠くのkyokoのレビュー・感想・評価

3.7
著名な脳外科医アーラム(なんとなくジェイク・ギレンホールに似ている)は多忙な日々で家庭を顧みず、後妻とも関係が冷えつつある。

先妻との息子の18歳の誕生日プレゼントに天体望遠鏡を買う(息子はこれを天体観測コンテストで使うつもりだった)→息子が脳腫瘍と判明。父取り乱して誕生日に帰れず望遠鏡も渡せず→北部の砂漠地帯へと出発してしまった息子を父慌てて追いかける。

ここまでの「なんでそうなるのよ」な強引さが目立つストーリー展開でなかなか集中できなかったけど、一転息子のもとへと向かうロード・ムービーになってからは盛り返してきた。

病気を治すのは最先端の技術だと疑わず神の存在も信じなかった彼が、権威もベンツも携帯もなにひとつ役に立たない砂漠のど真ん中で救われる者となったのはなんとも皮肉な話である。息子へと向かう旅の中での出会い(ガソリン売りの男、ラビ、女医、傷を負った子供)が、すべては「神へと導く使い」ということになるのだろうか。
一貫して顔の見えなかった息子とのラストシーンが美しかった。

携帯の繋がり方はさすがに都合良すぎな気もしたし(ていうかあんなところで繋がるのがすごい)、演出も実はそんなに好きな方じゃない。でもメッセージはきちんと伝わってくるし、ブレのない脚本だと思う。

テヘランの都会的な様相の中で鳴り響く年越しのロケット花火の音に「祭なんだか戦争なんだか分からないわね」という秘書の軽口は戦争が遠い昔の話ではないことを実感させる。
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