たく

曳き船のたくのレビュー・感想・評価

曳き船(1941年製作の映画)
3.6
曳き船の船長が救助した船に乗ってた女性と運命的な恋に落ちるメロドラマで、若きジャン・ギャバンにまだ全盛期の渋さはないものの、二人の女性の間を揺れる色男っぷりは健在だった。海上での救助シーンの迫力もすごかったね。

曳き船の船長アンドレが、船員の結婚式中に入った救助要請に従って海に出るくだりが最初に描かれて、彼がどんな時でも呼び出しがかかれば救助に向かうという、いわゆる社畜なんだよね。奥さんがアンドレにぞっこんで、この不在がちな夫をなじるのがちょっとメンヘラっぽいんだけど、自身の心臓の病気を夫に隠してて複雑な思いを抱えてる。いっぽうでアンドレが救助した船の船長の妻であるカトリーヌと再会し、恋に落ちると同時に妻への愛が冷めるあたりが軽薄な男に感じちゃった。彼が同僚から夫婦問題の相談を受けてそれらしいアドバイスをするくだりがあって、実は夫婦関係に危機が訪れてたのは自分の方だったというのが皮肉。

アンドレがカトリーヌと恋に落ちることで社畜精神から解放されるのがまさに恋の魔力。愛する人のために仕事も妻も捨てるところまで行ったところである悲劇が起きるのが、人生そう上手くいかないよねっていう描き方だった。ミシェル・モルガンは昔観た「田園交響楽」ではあまり印象がなかったんだけど、「霧の波止場」でその美しさに惹かれた。本作でも男を虜にするような妖しい魅力が漂ってたね。
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