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ティングラー/背すじに潜む恐怖のLudovicoMedのレビュー・感想・評価

4.6
「皆さん、劇場内にティングラーが逃げ込みました。さあ命ある限り悲鳴をあげて下さい。ほら今足元を通り過ぎた、叫べー」

元祖4DX的アイデアを映画に取り込み、インタラクティブ性を追求したウィリアムキャッスル監督。中でも最も人気と名高い、そして50年も前に4DXを体験した観客から大好評だったのが『ティングラー』だ。

ウィリアムキャッスルは50〜60年代に低予算のホラーを撮りまくり活躍した監督の一人で、ロジャーコーマン的な他愛もない作品だったりするのだが、彼の特徴は映画体験そのものを参加型応援上映として極めたことだった。
『13ゴースト』という映画では観客に、上下で赤青に分かれたメガネを配布しておき、片方のフィルターから除けば幽霊を観れる、ひと読んでイリュージョンオーというギミックが施された。
また、『ミスターサルドニクス』では悪役をどう懲らしめるか観客に投票を始めるパニッシュメントポールなんかがあったり、『地獄へつゞく部屋』では画面からガイコツが飛び出して、模型のガイコツが上部を彷徨うというアイデアで観客を喜ばせたという。

かくして、ギミックの帝王と称されるほど彼の試みは話題を呼び、ジョーダンテから『ロッキーホラーショー』に至るまでエポックメーキングな影響を与えた。

さて本作ではパーセプトヴィジョンという聴き慣れないギミックを映画館に用意した。数年前にカナザワ映画祭でこれが再現されたようで行きたかったー。
のだが、自宅で鑑賞しても『ロッキーホラーショー』同様とてつもなく感動した。

ウィリアムキャッスル映画には監督御本人が冒頭スクリーンに現れ、世にも奇妙な物語のタモリさながら枕を語るのがお決まりとなっている。「皆さんにご忠告を、本作では奇妙でビリビリする感覚に襲われるでしょう。忘れないでくださいその時は全力で叫び声を上げるのです」
ティングラーとは、人体にもともと潜む寄生虫であり、恐怖感情をエサに成長するが叫び声で弱まる未確認生物なため、科学もその領域には達してないという。
なんとも子供騙しなSF妄想だが、それがびっくり仰天、ヒッチコック譲りなサスペンスの核心へ周到に迫るセッティングパートが非常に魅力的なのです。
ヴィンセントプライス演じる科学者は何としてもティングラーの存在を証明したい。妻はその研究を小馬鹿にし、外で浮気三昧。友人の映画館主は、聾唖者で声が出ない妻と少し骨が折れる毎日を送っている。
彼らの私欲が絶妙に全貌が見えない形で疑心暗鬼スリラーの面白さを引き出しているのだ。
これらがある臨界点で、コケ脅し的ではあるものの、モノクロ全編に現れる鮮血のイメージ。そしてとある被害者の圧倒的恐怖のリアクション。
ホラー映画は驚いてる人の表情が恐ろしいという理論を徹底した演出で魅せてくれる。

そしてついに姿を現すティングラーが不気味かつ、出し惜しみの妙で思わず驚愕してしまうのだ。
また、肝心なのはどの人間にも潜んでいるという誇張が肝で「あなたにも潜んでいる」と観客に共有することがよりインタラクティブな面を盛り上げられる。
妙に高尚な哲学空想より思いっきり飛躍したハッタリで恐怖の"実態"を表現する方がある種アクロバティックにギョッとさせられる効果がある。

というのも、今回のギミックは客席にランダムで静電気のバイブ装置を設置し、ティングラーに襲われる体験ができるというもので劇中、映画館の場面が出てくるのだ。
これが、ジョーダンテの『グレムリン2』に多大な影響を与えたのだが、映写機が止まりティングラーの影が蠢く。ここで『ロッキーホラーショー』さながら絶叫上映を煽り、観客は今まさにティングラーが現れたかの様な体験ができ、劇場は大絶叫となるのだ。

ウィリアムキャッスルの実験映画的考えは、近年Netflixが極地に達した『ブラックミラーバンダースナッチ』なるものがある。そして応援上映全盛期に彼の作風は陳腐に思えるかもしれないが、ヒッチコック的な娯楽性の追求に大胆な上映マジックを巻き起こすエンターテイナーっぷりに本気で感動しました。
これがメタ映画の根源の面白さなのか。

とにもかくにも、パーセプトヴィジョンなくともTVサイズであってもメチャクチャ素晴らしい映画体験だったぞ。
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