めしいらず

ザ・バニシング-消失-のめしいらずのネタバレレビュー・内容・結末

ザ・バニシング-消失-(1988年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

旅先で立ち寄ったサービスエリアで忽然と失踪してしまう妻。その真相が判らぬまま三年が経過しても、夫はまだ探し続けている。あの時、妻に何が起きたのか。生きているのか。さらわれたのか。何も判らないからずっと囚われてしまう。もしガス欠しなければ。もし直前に喧嘩しなければ。もし寄り道しなければ。もし、もし…。判らないから一歩も前に進めず苦しんでいる。そして場面は転換。家族と平穏に過ごす男の日常。良き父、良き夫として家族関係は良好そのもの。しかし…。その裏で彼は女性を誘拐する手順を何度も繰り返し練習。しかし実際にやってみるとまるっきり上手く運ばず悉く失敗する。相手が知人だったり、怖い亭主に凄まれたり、クロロホルムを染ませたハンカチで間違えて鼻をかんだり。しまいにはナンパならサービスエリアがいいわよとアドバイスされる始末。そうやってくだんの妻と遭遇してしまった。一つの小さな選択がその次の選択肢に影響しながら人生は続いていく。三年前のあの時、二人の線はちょっとした天の配剤によって交わってしまったのだった。そして男は、今度は夫に接近し揺さぶり始める。夫の前に姿を現し真実を知りたくば自分について来いと言う。男は反社会性パーソナリティ障害だと告白。明らかに危険が待っていそう。でもどうしても知りたい。あるいは危険を軽く見積もったのかも知れない。夫が目を覚ました時に知る真相。妻の末路。同じ立場にわざわざ飛び込み、その圧倒的な絶望の中で彼は笑うしかなかった。”知りたい”という感情に人が抗うのは難しい。でも知らない方がいい真実が、近寄ってはいけない領域があること。間抜けな男の道化的な見え方の向こう側に、そんな失態続きであっても執拗に目的を果たそうする真剣そのものの黒い内面が想像せられて空恐ろしくなる。
キューブリックが“生涯最恐映画”のお墨付きをつけたと言う惹句があまりに魅惑的でずっと気になっていた作品。その理由が知りたくて二回続けて鑑賞。
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