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ジョン・カーペンターの 要塞警察のninjiroのレビュー・感想・評価

4.1
嗚呼、こんなにも映画は面白い。


カルフォルニア州アンダーソン地区、9分署は機能移転を明日に控えて引越しの真っ最中。
署員の大半は移転先への移動を終え、数人を残した署内の臨時指揮官として警部補に昇進したばかりのビショップを置き、最終移転が完了する明朝までの一夜限りの見張りとする。
そこに大量の銃器強奪の末警察との睨み合いの続いたギャング、「ストリート・サンダー」の半ばテロのような無慈悲な凶弾により幼い娘を殺害され、衝動的な復讐を遂げた後に救いを求めて逃げ込んできた男、そしてひょんなことから移送中の凶悪犯"ナポレオン"・ウィルソンをはじめとする3人の囚人達を、最早大方の機能を失った署内に迎え入れることとなった。
一方何時しか建物の外には、サイレンサーを装着した銃で武装した「ストリート・サンダー」のメンバー達が大挙して、闇夜に紛れ静かに集結しつつあった…。

「ダーク・スター」でデビューしたばかりのジョン・カーペンター監督によるアクション映画。
ロケーションはほぼ全編警察署内に限定され、その中で起きる出来事も、ストーリーラインを特別飛び越えるような物は一切ない。
スターと呼べるキャストは誰一人として登場しない。
エフェクトと言えば映画創世記から伝わるなんの衒いもない原始的なガン・エフェクトのみ。
そしてお馴染み初代ファミコンが奏でるが如くのペラペラな自家製カーペンターミュージック。
この、恐ろしいまでの省エネ。
ところがその安普請は、この作品に負の影響を一切与えない。

シチュエーションとストーリー本線を限定することで得られるギッチリした凝固感、音なき銃声と弾ける壁やガラスというシンプルな方法で背筋の凍る緊迫感を演出し、キャスト不足は相手方のギャング達=大量のエキストラをひたすらに署内を目指す物言わぬ不気味なゾンビのような扱いとすることで克服し、そこに被さるペラペラミュージックはもはやシュールな魅力を湛えている。

また、見たことも聞いたこともない無名役者が織りなす豊穣な人間模様。
ビショップの真摯な正義感。
クールで肝の据わった女署員。
そして飄々としながらその実漢気満載のナポレオン・ウィルソン。
彼らの台詞一つひとつ、見つめ合う様、タバコを咥える口元、マッチを擦る動作、どうやったっていちいち痺れる。

ラスト近く、彼らの交わす魂のやり取り。
それはそれぞれの立場や性別すら超え、人としての矜持や魅力を尊重し合う、シンプルながら鳥肌必至の名シーンの雪崩打ち。
知らない・安そうな面々だからといって、それが感動を何ら毀損することはない。
むしろ、彼等だからこそ良かった。
心からそう思える。

カーペンターはいつだってちゃんと「解っている」。
そして我々は世代を超えて、いつの時代も、そんな彼を信頼して、彼が文字通り手塩に掛け、愛に溢れた作品を心から愛でるのだ。
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