継

ヴィオラソナタ・ショスタコヴィッチの継のレビュー・感想・評価

4.0
ロシアが生んだ20世紀最大の作曲家の足跡を辿るドキュメンタリー。
タイトルから晩年にスポットを当てた作品かと思いきや, 青年期から壮年期までを詩的なコラージュを用いて紹介する伝記的なものでした。

制作時期がペレストロイカ発動直前というナーバスな政治状況下にぶつかり, KGBに上映禁止を命じられたいわく付きの作品。
人民の英雄たる人物を悲劇的とも取れる扱いで描いたからと言われてるそうですが, その辺り意識して観てもほとんど言い掛かりにしか聞こえません(^o^;)。

インタビュー等はなく, 代わりに当時の様々なニュースフィルムや貴重な写真を紹介。ムラヴィンスキーの演奏, 感極まったバーンスタインに抱き付かれて若干引き気味な姿(笑), 企画段階で終わった興味深いバレエ作品…
収穫だったのは, オイストラフというヴァイオリニストが録音していた彼との電話での会話。本作を観ようと決めたのは, ある意味この会話が目当てでもあったんですが成程そういうことでしたか…思っていた内容ではありませんでしたが, その価値に足るものでした。

監督のソクーロフは『太陽』という昭和天皇(演:イッセー尾形)を描いた作品しか知りませんが, 題材としてデリケートでミステリアスな人物を選んでいるのであれば, ショスタコーヴィチは確かにその眼鏡に適う人物に思えます。
スターリン時代から続く圧政下で作品が体制にそぐわないと批判され粛清されそうになり, 仕方なくプロパガンダ的な交響曲を書いて失地を挽回したり…生き辛い時代にギリギリで折り合いをつけて己の天賦の才を世に知らしめた音楽家。
ただ, 彼自身の真意が何処にあったのか?今もって謎に包まれてるんですね。
一説には反体制的思想の持ち主だったとも言われて, 幾つかの作品には体制を揶揄・批判する意図が込められてるなんて解釈もあるんだけれど, 何しろ本人が何も語らず(語れず)亡くなってしまったので真偽のほどは定かではありません。。

本作は制作時期の関係もあり, 政治的スタンスとか下記↓する発見には触れません。この辺りも踏まえたら『アマデウス』並みに面白い映画が出来そうな気もします(^^)

※「ヴィオラ・ソナタ」は, ショスタコーヴィチが世を去る直前の1975年に書かれた最後の作品で, 彼の過去の作品やベートーヴェン『月光』が引用されてるのは以前から言われていた事なんですが, 本作から25年を経た2006年になってあるピアニストがそれまで誰も気付かなかった「ある事」を論文で指摘して世間を驚かせました。
それはこの曲の終楽章に, 彼の書いた15の交響曲全てが引用されている(!)というもの。
自分は知らないものも多くて全て理解出来てはいないんですけど, それでも改めて聴くと “今のトコはあの曲の…?!” とか気付かされるものがありました。
確かに鑑賞や譜面からよりも, 実際に演奏する側のが感覚的にピンと来やすそうな気もします。普通なら継ぎ接(は)ぎの痕跡が残る歪(いびつ)な連なりになりそうですけど, 発表から約30年もの間, 専門家ですら気付かない程に完全なひと繋がりの旋律として聴かせてしまう…
死期を悟り己の生涯を振り返るつもりだったんでしょうか?でもそれなら『月光』は何故?…
謎は, 深まるばかりです。。
継