ゆ

幸せなひとりぼっちのゆのネタバレレビュー・内容・結末

幸せなひとりぼっち(2015年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

とても良作でした…。
ストーリーでいうとシングルマンを思わせる流れ。物語をゆっくりと辿っているような構成で見入ってしまう。主人公の男はとても頑固で偏屈で、駐車違反や通行等地域の規則を守らない人間や自分のパーソナルエリアに入ってこようとする人らを疎み、小言を吐き、自ら孤独に踏み込んでいるような、側から見たらとにかく面倒くさい人間。

この映画はそんな彼が癌で先立ってしまった妻の後を追う為に自殺しようとするところから始まるのだけど、隣に越してきた騒がしい隣人の邪魔が入って中々死ねない。この隣人との出会いをきっかけに頼まれごとを渋々引き受けて行くうちにどんどん人との繋がりが増えていって、孤独に死ぬはずだった男は最期、温かい人々に囲まれながら看取られてゆくのでした…というヒューマンコメディ(コメディに分類するのはちょっと悩ましいところだけどとにかく微笑ましくて心が温かくなる話)

劇中彼が幾度か自殺を図るシーンでは必ず過去の回想、妻との思い出が走馬灯のように入るのだけど、それにもいちいち感情移入してしまう。母を失い、父にも先立たれ、1人ぼっちだったところで自分を理解してくれる女性に出会って、恋をして、結婚して、その記憶は本当に幸せそうで、懐かしくて…。でも、そんな妻にも先立たれてまた1人ぼっちになってしまった。不器用だから誰にも頼れないし誰とも関係を築けない。

自殺に失敗する度に先立たれた妻の墓に行くシーンも凄く好きだった。渋々野良猫を引き取ることになると「居候が増えてそっちに行くのがまた少し遅くなりそうだ」とごち、死に損なうたび「今日はこんな邪魔が入った、まだ当分そちらには行けない」「お前を待たせるのは初めてだな」なんてグチグチ言いつつも、実は死ねないことにも少し安堵していたんじゃないかな、なんて考えて、孤独な世界に残された者として中々妻の元へ行けない悲しさはあれど、見ている側としてはなんだか微笑ましくなってしまう。

物語後半、主人公が死にかけるも無事生き返ったところで隣人の言った「あなたって、本当に死ぬのが下手くそね」というセリフで、ああ、この人たちもなんだかんだ彼のことを気にかけていて、きっと途中からは自殺のことにも気づいていて、それを阻止しようとしてくれていたのかなあ、なんて考えて、人って温かいなと思ったし、頑固で不器用な彼の最期が孤独でなくて本当によかったと思った。彼はそうして幸せな1人ぼっちとして妻に会いに行けたんだ。

温かい気持ちになりたい時はまたいつでも見返したい。心にしまっておきたくなる話でした。
ゆ