GreenT

マーゴット・ウェディングのGreenTのレビュー・感想・評価

マーゴット・ウェディング(2007年製作の映画)
2.0
マーゴット(ニコール・コッドマン)は息子のクラウドを連れて、ポーリーン(ジェニファー・ジェイソン・リー)の結婚式に出席するために、故郷のロング・アイランドに帰って来る。招待状を出したものの、家族と疎遠なマーゴットが来ると思わなかったポーリーンはちょっと困惑気味。空気を読まないマーゴットは、ポーリーンの結婚相手のマルコム(ジャック・ブラック)がブ男で無職で才能のないアーティストであることが気に入らないのを隠すことができない。

アメリカで良くある、裏庭にテントを立てて、ケータリングを呼んで結婚式をする、「家族で手作りの結婚式」ってやつですか。しかしノア・バームバックお得意のdysfunctional family(崩壊家庭)ものなので、一筋縄では行きません。

マーゴットとポーリーンの会話を聞いてると、もう一人ベッキーという女性を含めた3人姉妹で、お父さんがDV気味だったことや、ベッキーが馬の調教師にレイプされたとか、子供の前で話ながら「あはははは」とか笑っちゃったりして、風変りなファミリーだということが分かる。

ポーリーンは、美人な上に作家として生計を立てている年上のマーゴットに憧れ、慕っているのだが、同時に嫉妬し、また人の気持ちを顧みないズケズケした言動に傷付けられるのもウンザリしている。

そんなこんなしながら裏庭ウェディングの準備を進める中、マーゴットが突然結婚式にくることになった理由がわかる。ポーリーンの家の近くに住んでいるディックという作家と脚本を共作していること、また地元の本屋で著書の宣伝のためにディックとの対談がスケジュールされていたのだ。

しかもマーゴットはディックと不倫しているらしく、夫のジムには「結婚式当日まで来るな」と言っている。つまりマーゴットは、ポーリーンの結婚を祝うために来たのではなく、ディックと逢う口実、もしくはタダで泊まれるから?いずれにしろ、人を利用することしか考えない。

このマーゴットって、ものすごい好感度低いキャラだと思うのですが、私は嫌いになれません。ジムは離婚したくないとマーゴットを追いかけてくる(ジム役がジョン・タトゥーロという意外な配役)のですが、その時のやり取りが、なんか私にはわかる。ジムにとても愛されているとわかっているのだが、一緒にいても幸せじゃない。これは、自分が相手を愛せないからなんだと思うんですよね。この気持ち、わかるんだよな~。

で、妹のポーリーンに、「ジムとも別れたくないけど、ディックも失いたくない。どーしていいかわからない」と言う。まあ、現代のモラルに押し込められない人なんですよ。あと、家族の不幸をすぐ本に書いちゃうらしいんだけど、これはウディ・アレンの『ハンナとその姉妹』にもあったよね。作家はやっぱり身の回りの人をモデルにしちゃうというか、観察力が優れているし、それを言葉にできちゃう才能があるから作家やってるんだけれども、周りにいてネタにされる方はたまったもんじゃないなあ~と。

でも対談で「この話はお宅の家族のものでは?」みたいにツッコまれると動揺したりして。

この映画は、『イカとクジラ』のトンデモファミリーのお母さんと次男がモデルと言われているのですが、誰がモデルというよりも、アーティスト一家のあるあるというか、エピソードの集大成のような気がしました。

ジャック・ブラック演じるマルコムが、全く金にならない絵を描いたり、ミュージシャンをやったりしているんだけど、彼はプロにはなりたくないと言う。「あの、拒絶されるのに耐えられるならやればいいけど、俺は耐えられない」と。これ、すごく共感した。私もアート好きだけど、アーティストの世界で常に批判や批評の対象になって生きていたら、メンタルやられると思った。こんなマルコムをルーザー(負け犬)だと思っているマーゴットは、ナルシストだから人の批判なんて跳ねのけられるんだろうなっていうか、結局芸能界・アートの世界ってこういう人の集まりなんじゃないかとか。

ちなみに夕食のシーンでマーゴットが「最近単語が思い出せない」って話を始めて、マルコムが、「俺もモトリー・クルーのベーシストの名前を思い出せない」って言って、他の人は会話を続けているのにずーっと考えてて、「ミック・マーズ!」って言うシーンがあるんだけど、モトリー・ファンなら百発百中「ニッキー・シックスだよ!」と叫ぶシーンですよね。昔は「間違えてる~」って思ったけど、今リサーチしてみると、モトリーの知名度って結構高いので、これは作為的なんだろうなって今回は思った。マルコムが本当に思い出せないっていうのと、見ている人から「ニッキー・シックスだよ!」というリアクションを引き出そうという。

まあこういうブラック・コメディ的な要素もあるのですが、ほとんど笑えないと思いました。そのくらいヤバイ家族だなあ~と。庭に大きな木があるんだけど、隣の家族に処分しろと言われている。隣は、「根がうちの庭まで来ていて、しかも腐っている。うちの植物に悪影響だから切れ」と。この木は、マーゴットが小さい時に良く登った思い出の木なので切り倒したくないのだけど、最終的には切ることにし、結婚式用のテントも隣の家の塀もなぎ倒して倒れる。

隣の家族も、すっごい変な家族で、ちょっとホワイト・トラッシュな感じで、クラウドや子供たちがしょっちゅう覗き見している。

この大きな木が結婚式のテントを潰すのは、トンデモ家庭に育つと健全な人間関係を紡げないことの象徴なのかな~とか、隣の家族は、すっごい変だけど、そう思っているこの家族も変だよ、という、「あなたの家族だってどっかおかしくないですか」ってことの比喩なのかなって思った。

『イカとクジラ』では、最後長男が親離れをすることを示唆する「ハッ」とするシーンで終わっているけど、こっちはお母さんが「子離れできない」ことを示唆するシーンで終わっている。マーゴットは、周りの人、自分を慕ってくる夫や妹や息子を突き放すことで感情的に操り、逆に自分に縛り付けようとする。でも自分はいつも自由でいたいから、相手から頼られるのは嫌い。この矛盾した感情を常に抱えているので、すごく不安定なんだと思う。

こういう環境で育てられた子ってどうなの、って思うかもしれないけど、女であることをあきらめて母に徹したがために「本音のわからない親」になって子供が疎外感を感じることもあるし、なんとも言えないですよね。今回も『イカ』に続いて家族の形ってなにが正なんだろ?って考えさせられるけど、『イカ』『マーゴット』『マイヤーウィッツ家の人々』と三本立てで見ると、こういう家族がどうなっていくのかがわかって面白いかと思いました。
GreenT

GreenT