いの

不安は魂を食いつくす/不安と魂のいののレビュー・感想・評価

4.2
エミとアリ。清掃員と自動車修理工。50代(推定)と30代(推定)。1人暮らしで初老にそろそろ足を踏み入れそうな風貌のエミと、モロッコからの移民アリ。1970年代の西ドイツ。恋に落ちるのは一瞬のことで、愛し合うことは息をするのと同じくらい当たり前のことで、求め合うのも当然のこと。でも、周囲の人は誰もが皆反対。あからさまな差別。愛し合う二人まるごと排斥しようとする。エミが泣き崩れる場面がもう切ないくらい切なくて、エミは少女みたいだなって私は思う。恋に落ち、愛に生きる女に年齢なんて関係ない。エミの頭をなでるアリ。泣き崩れるエミの頭をなでることしかできないアリ。観ているしかできないわたしは、泣いている女の頭をなでるしかできないアリを、頭なでてくれたらそれだけでいいんだって思う。侮蔑していた人たちはそれぞれ、自身が窮地にたってお願い事をする立場になると急に態度を翻す。なんてうわっつらなんだ

二人の愛は揺らぎ試される。けどー 



重い話だけど、エミの笑顔がこの話を沈ませないのだと思う。アリの魅力が上質さを担保する。時折ある、狙いすましたような構図と色合いが、これぞ映画だとわたしに訴えかけてくる。映画を観てエミとアリに惹かれた観客に、あなたはあなたの生活の中にちゃんと持ち帰って実生活のなかで問うてくださいよと言っているようにも感じる。



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サム・メンデスはこの映画に影響を受けたのかな。この映画のエミとアリは、昨年公開された『エンパイア・オブ・ライト』のヒラリーとスティーブンにも繋がっているように感じる。今作は1974年制作。サムメンデス作品の設定は1980年代前半。今作のエミを演じたブリギッテ・ミラと、オリヴィア・コールマンはなんか雰囲気も似ていたような。
いの

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