むさじー

飢餓海峡のむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

飢餓海峡(1965年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

<貧しかった時代を生きた男女のすれ違いの愛憎劇>

戦後の混乱期、この時代は誰もが貧しかった。
家を支えるために娼婦となった若い娘がいて、強盗の片棒を担ぎ、その後の仲間割れで殺人を犯す男がいて、闇米に頼れない刑事の家では食うものにも困っていた。
男は女がくれた優しさの見返りにお金を渡し、女は男がくれたお金で救われた。
女にとって男は時を経ても永遠の恩人であり純愛の人だが、金を元手に成功した男にとっては消したい過去だった。
そのすれ違いで起きた悲劇だった。
頬がこけギラギラした目で握り飯をほおばる犬飼(三國連太郎)のハングリーさには凄味があるし、八重(左幸子)が犬飼の爪を頬に刺して恍惚となるシーンには鬼気迫るものがある。
二人の演技に圧倒されるとともに、二人に割り込む弓坂(伴淳三郎)の執念という静かな炎に、貧しくとも自分を貫く男の生き様を見る。
16ミリフィルムで撮影し、35ミリにブローアップすることで生まれる粒子の粗いざらついたモノクロ画面、ポジ像にネガ像をかぶせて異様な雰囲気を醸し出す演出など、これほど個性的で、この混乱の時代をリアルに描いた作品は見当たらない。
半世紀経った今観ても、その描かれた人物像は生々しく、ダイナミックな展開に引き込まれてしまう、まさにサスペンスの歴史的傑作である。
むさじー

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