『71フラグメンツ』
ハネケ監督は単純なストーリーには全く興味がないらしい。寧ろ分かりやすいストーリーは観る側の想像する力を劣化させる、と言わんばかり。
とにかく、ハネケは私たちに想像することを要求し、作品の中に引きずり込もうとする。
映像を連続させず、敢えて断片的にしているのは、普段私たちが見ているのは飽くまで一部分であり、断片でしかないというメッセージ。
事件や国際紛争のニュース、ディスコミュニケーションの夫婦、虚無感に包まれた大学生、街行く人たちから見向きもされない浮浪児…
人と人との繋がりの中で「生きにくさ」を群像劇で表わしている。
本人でない限り、その「生きにくさ」の理由は分からない。他人からすれば目にしているものが「事実」であっても、断片的に事実なだけであって、それが「真実」とは限らない。
父親と娘の長電話、一人で一心不乱にピンポンを続ける大学生の長回し映像。単調な映像から、観ている側はその意味を次第に見い出そうとする。関心が湧くことでその背景にまで想像を巡らせる。
ハネケ監督は「想像力を働かせよ。そうすれば真実に近づく」と言いたいのかもしれない。
「映画を単なる娯楽に終わらせてはいけない」という監督の想いが伝わってくる。