耶馬英彦

悪い子バビー/アブノーマルの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

4.0
 生まれてから35年間も閉じ込められて、母親以外の人間と会ったことがない男という設定はユニークだ。そのうえで彼の精神性を想像した結果が本作品である。
 外界と接することで人間は何を得るのか、同時に、何を失うのか。バビーは外に出た途端にあらゆるものを吸収する。初めて聞いた罵声、初めて聞いた歌声、初めて食べたピザ、初めて聞いたロック。感動は強烈で純粋だ。
 母親のインセストのせいで巨大な乳房にしか興味が湧かないが、バビーのバイアスはそれだけだ。あらゆる言葉を受け入れ、真似する。その結果、他人がどう反応するかを見て、自分が言われた言葉が表す精神性を理解する。バビーの世界観が形作られていくのだ。
 敵意ではなく親愛を示しながら近寄ってくる猫の姿に、愛おしいという気持ちを初めて体験する。バビーにとって世界の魅力は、音楽とピザと、それに猫だ。愛おしさの気持ちは拡大し、やがて巨大な乳房に収斂する。
 いい子は真似してはいけない食品ラップの使い方といい、それとかけたのかもしれないが、初期のラップみたいなバビーの歌といい、描き方はとても斬新で、驚きに満ちている。成長物語であり、ラブストーリーでもあり、音楽映画でもある。すごくよかった。
耶馬英彦

耶馬英彦