ninjiro

バッド・チューニングのninjiroのレビュー・感想・評価

バッド・チューニング(1993年製作の映画)
3.5
大人になったら忘れちゃうことばっかりだ。

良いことも悪いことも、だいたいそれぞれの半分も覚えてれば良い方で、仮にガキの頃に起こった事件を全部覚えてたとして、その時々に抱いた気持ちや熱量、今となっては滅多なことでは抱かない高揚感や惨めな気持ち、これから大人になっていく過程でこの先いつか起こるであろう何かにワクワクした気持ちを、克明に心に留めておくのは難しい。

未発達のガキから少し大きくなった身体があって、車があって、バカを請け負う仲間がいて、強い酒があって、これから気になるかも知れない異性がいて、ギターの重いリフに励まされる軽い心があって。

何も大したことはしてないし、生産が即ち世の為ならば、勿論そんなものに与してはいない。
今はただ、退屈な世の中と理想との距離を自分なりに埋めるのに忙し過ぎるから。
芋虫は孵化して飛翔する前から害虫と断ぜられ、駆除されることも多い。幾ら理屈を並べても、生産サイクルに於いては所詮害虫に他ならないからだ。ある程度までの節度を守りながら世の中の害虫として正面切って生きられる芋虫の時代は、人間に例えれば何より眩しいのに。

深夜の路面の匂い、人と触れ合う距離、クールをきどりながら爆発する感情、みっともない青春。
誰かが初めてFreak outする時、その瞬間は彼の人生の後々にまで大きな影響を及ぼす。
どれだけ早く走るか、どれだけ高く飛べるか、何かに価値を見付け、ひたすらにそれを競う人達が皆かつてそうだったように、今現在は何の価値もない日常にもがいていても何か自分だけの価値を見つけられる機会はいつでも転がっている。
人生の価値なんて誰が決める?真価って何だ?

疲れ果てた早朝に嗅ぐ街の匂いは、そりゃもうたまらない。

例えば死ぬ前にそれを思い出したいなら、その時に描いた風景を・抱いた想いを大切に守る事が真価なのかも知れない。
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