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東京家族のハターのレビュー・感想・評価

東京家族(2012年製作の映画)
4.5
つい先日、この作品を観る為に小津安二郎の『東京物語』を観ました。普段何かしら映画を観終えると「映画を観た!」という感覚があるものですが、それを感じさせてくれなかった。そのおかげもあり勝手も勝手、意識せずともハードルを上げた状態でこの作品を観る事となってしまった。
リメイクとなると、元となる作品を頭に浮かべながら流れを追う事になるので、どうも無駄な力が入る。しかし、一つ一つのシーンに抜かりなく気が遣われていて、結果的に曇りない感動を味わわされた。まずそれだけ取っても素晴らしい映画だったと言えます。

元となる『東京物語』では会話シーンでの一人称視点の切替と遠目からのカメラワークが印象的でしたが『東京家族』でもやはりその手法は用いてられていた。小津調と呼ばれるこの手法、そう言われる所以を確かなまでに理解できるほど、新鮮なものとして私の目にも映りました。しかし『東京物語』を観ていなければ、云わば不自然と捉えざるをえない演出とカットの山だったかもしれない。それほどに小津調というものは特別な手法なのだと、考えさせられました。

名だたるキャストの中でも秀でていたのは、妻夫木聡扮する次男の恋人役を演じた蒼井優。自然体な姿が役柄の位置をしっかりと引き立てていて、本当に良い女優さんだなぁと改めて感じました。印象に残るシーンは数多くありましたが、その中で一つ挙げるなら上京してきた夫婦を演じた橋爪功と吉行和子がホテルに泊まる一連のシーン。洋室の部屋で窓から降る夜のネオンを浴びる2人。まるで映画館にいるかのような画の中で、ベッドに腰をかける橋爪功と隣で床に正座をする吉行和子。そこで交わす会話は2人で初めて映画を観に行った時の事。このシーン、なんともほろっとくる。

山田洋次監督が本作に込めた切なる思いは、小津安二郎への敬意を表すると同時に現代社会へのメッセージも込められている。今年で83歳を迎える山田洋次、今注目すべき監督の1人であると思います。
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