Foufou

よく知りもしないくせにのFoufouのレビュー・感想・評価

よく知りもしないくせに(2009年製作の映画)
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今度は(も)映画監督が主人公。これがさる地方の映画祭の審査員として招かれる。映画祭ではその他の審査員らからおべんちゃら言われて気をよくするものの、夜のレセプションでは自分より売れてる作家がチヤホヤされ、それを尻目に砂を噛むような思いをさせられる。夜毎の酒宴で焼酎を煽るように飲み、親しげに近寄ってきた誰彼の逆鱗に触れる。我らが主人公の監督さん、芸術映画とは聞こえがいいが、要は売れない作家とその作品はとうから軽んじられてるんですね。おまえ如きが……と周囲はなってくる。ああ、わかるわかる、となるには、人を選ぶのではないか。と思いつつ、ついつい引き込まれていくわけです。

相変わらずのホン・サンス節。いわゆるバカズームにバカ引きが、なんだか洗練の域に達している感あり。ああ、この人にとってカメラのアップ/ルーズには、人物と小道具の距離感の確認と、心理的距離感の表現との少なくとも二つがあるんだなと妙に納得。

後半は済州島が舞台だが、観光映画にしないところが良くも悪くもこれまたホン・サンス節。でも横溢する緑は明らかにロメールの再現を目指しておりました。最後に出てくる女さんね。ああいう人物が「人の心はわからない」と海を見ながらうそぶいて口の端を歪めるの、やっぱり見ていて「やられたー」となりますね。女ってやつは……とか言いそうになるハナから、ちょっと待て、監督さんよ、あんた既婚者だったよな……と遅ればせながら思いいたって、なるほど、女と男のラブゲームだったんですなぁと粛然とさせられるわけです。

「もうすぐオレも四十で重い年齢になるんだ」みたいなことを主人公がポツリという。そう、ホン・サンスが撮るものは、ことごとくモラトリアム映画なんですよ。人物はみんな酒癖も女癖も悪い。

だからホン・サンスと太宰治は、作家性において似ている気がする。
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