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教授とわたし、そして映画のnetfilmsのレビュー・感想・評価

教授とわたし、そして映画(2010年製作の映画)
4.2
 アパートの寂れた無人ショット、打ち捨てられた自転車、建物の看板は痛みで倒壊している。廊下から現れたジング(イ・ソンギュン)は特に感慨もないまま、摩訶不思議な呪文を唱える。だが後ろから来た妻は、彼をジングではなく、ヨンスと読み間違える。結婚から数年、最近妻の様子が冷たい。アート系映画の監督であるジングは最近なかなか映画が撮れず、恩師のソン教授(ムン・ソングン)に世話してもらった映画学科の教授の仕事で糊口をしのぐ。今日は短編映画の講評の日、再び酒を呑むことを妻に呆れられた男は、学生の実習作品に思いの外熱くなる。午後3時から、ソン教授に食事会に誘われた男は、理髪店で暇を潰しながら3時を待つ。ただ同僚の先生が言うパン先生を依怙贔屓しているという言葉だけが気がかりだった。酩酊したジングはそのことで恩師を責め、君は論理をもう少し理解した方が良いと嗜められる。呑み会の後の映画上映会のティーチ・インの席、Q&Aで手を挙げた客に、今度は自分が4年前の恋愛のことを突然責められる。当時、意中の男がいた女にジングが猛アタックし、やがて恋愛に発展。だが捨てられた女は廃人同様の生活を送っているという。
 
 四部構成になった物語は「第1章 呪文を唱える日」を除き、過去の回想シーンで紡がれる。ソン教授の手引きで、同じ学校の講師になったジングの大学生時代、主人公はオッキ(チョン・ユミ)という同級生に恋をしていたが、あろうことかオッキはソン教授と関係を持っていた。三角関係のひだを描く物語はクリスマスのある日、ストーカー気味のジングの少し気の触れた求愛をオッキが受け入れる。韓国で103年ぶりの大雪の翌日、ソン教授が教室に来ると生徒は誰もいない。やがて1時間後にオッキが来て、そのすぐ後にジングが教室に入り、3人は人生哲学の話で盛り上がる。ヴァカンスの季節を題材として来たホン・サンス映画には珍しい冬の物語、第2章ではジングの一人称、第3章ではソン教授の一人称で綴られた物語は、最終章で初めて女性側のオッキの一人称で据えられる。芸術としての映画は終わりだというソン教授の諦念、エルガーの『威風堂々』のメロディ、牛乳パックがここにある理由、アパートの前の階段で眠るクリスマスの夜、「永遠の謎 女の心」と書かれた黒板、積雪の上に吐かれたタコ、嵯峨山を登る2人の反復と差異の描写。女は終わった恋を過去に昇華し、懐かしむが、男たちの成仏出来ない思いはただただ学内で燻り続ける。
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