サマセット7

ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日のサマセット7のレビュー・感想・評価

4.4
監督は「グリーンデスティニー」「ブロークバックマウンテン」のアン・リー。
主演は「ミリオンダラーアーム」「ハッピーデスデイ2U」のスラージ・シャルマ。
原作はヤン・マーテルの小説「パイの物語」。

[あらすじ]
小説家ヤン・マーテルは、「神について知りたければ、その男の話を聞け」との助言を受け、パイ・パテルと名乗るカナダ在住インド人の話を聞きに行く。
パイは、幼少期から語り始める・・・。
インドの動物園経営者の息子として育ち、多様な宗教を信じる子供であったが、ある日、家族と動物園の動物たちと共に船でカナダに渡ることになった。
カナダ行の貨物船は、太平洋上で嵐に見舞われ沈没し、パイはベンガルトラとボートで漂流する羽目になるが・・・。

[情報]
台湾出身の監督アン・リーの二度目のオスカー監督賞受賞作品。

アン・リーは、アカデミー賞監督賞を2回、ヴェネツィア国際映画賞金獅子賞を
2回、ベルリン国際映画祭金熊賞2回それぞれ受賞という凄まじい経歴を持つ男性監督。

原作小説「パイの物語」は、2001年出版のベストセラー小説。
原作者は哲学を研究していた経歴を持ち、原作小説にも神学や哲学の要素が組み込まれている。
早くから映画化のプロジェクトは存在したが、古今の有名監督が脱落し、映画化の実現までかなりの時間を要している。

今作の映像化に当り、アン・リーは、徹底したCGの使用を選択した。
今作には、ベンガルトラをはじめ、シマウマ、ハイエナ、オランウータンなど多様な動物たちが登場するが、人間と接近したシーンはほぼ全てがCGによるという。
主人公パイが語る波乱万丈の冒険譚には、しばしば美しくも幻想的な情景が現れるが、これらの多くもCGで表現されている。

今作は、批評家、一般層ともに、好評を得た作品である。
1億2千万ドルの製作費で作られ、6億ドルを超えるヒットとなった。
アカデミー賞作品賞を含む11部門にノミネートされ、監督賞、作曲賞、撮影賞、視覚効果賞の4部門を受賞した。

【注意】
今作は、できるだけネタばれせずに見たほうが、楽しめるタイプの作品である。
鑑賞予定があるなら、レビューを見るのはこれくらいにして、とっとと鑑賞すべし。
以下、決定的なネタばれは避けるが、テーマや構造に触れる。

[見どころ]
CGによって精緻に描き込まれた、美しい映像表現。
生きて動いているとしか思えない、動物たちの描写。
実写とは一体何なのか、と思わせる!!
引き込まれる、海上での猛獣とのマンツーマンのサバイバル!!!
ラストの強烈な展開と、深く納得させられるテーマ性。

[感想]
うわー、すごい作品見たー!!!

漂流&猛獣サバイバルとして面白いのは勿論として。
どこに連れて行かれるのか、分からない不可思議な感覚が物語を牽引するが。

奇妙に超現実的で美麗なCGで創造された映像。
漂流が始まるまでに、妙に長く描かれる、「神」の話。
やがて超現実性は閾値を上回り…。

全ての伏線は回収され、ラスト。
この不思議な話が、一体全体、何を言いたい話なのかが、明らかになる。

これは、唸った!!
集中して観るべき映画だ!!!

[テーマ考]
私見だが、今作は、スピリチュアルな何かを描いた作品ではない。

また、無神論者だと真には理解できない、という類の作品でもない。

極めて理路整然とした、論理的な映画だ。

今作は、人は、何のために物語を語るのか、を描いた作品だ。
古来より語られてきた、神話、伝説、宗教、その他、ありとあらゆる物語が、何のために語られたのか、を、端的に表現した作品だ。

原作者の経歴がヒントになるだろう。

アン・リー監督の偏執的なCG多用も。
序盤の長尺を要する宗教のエピソードも。
勿論、漂流譚の全ても。

何もかもが、このテーマのために。

全ての物語は、人を救済するためにある。

[まとめ]
深遠なテーマを含む原作を、天才監督が美麗に映像化した、「語り部」系サバイバル・アドベンチャーの傑作。
ラスト、日本人の保健調査員の結論は、テーマに鑑みると、とても粋だ。
虎の瞳に映るのは…。