真田ピロシキ

かぐや姫の物語の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

かぐや姫の物語(2013年製作の映画)
5.0
約10年ぶりになる鑑賞はより深い理解を呼び覚ました。本作には色々なテーマがあるが、今回自分が感じたのは劇中でかぐやが発した「ニセモノ」という言葉。現代文明の町中で生きている自分は山にいた時にかぐやが心を奪われた生の営みをまるで知らない。草木や鳥の名前も使っているものを誰がどのようにして生み出しているかも全然知らずに過ごせている不自然さ。それでいて都のかぐやが慰めとして箱庭を作ったように時に郷愁を消費する。そんな"人間らしさ"を求めても、いざ天上のハイカルチャーに戻ってしまえば忘れてしまうだろうという現代人の皮肉。かぐやは感情を残したまま月に戻ったが、それも結局は一時的なものに過ぎないのではないか?そんな意地悪な問いかけに感じ、高畑が以前に手がけた『おもひでぽろぽろ』とも通じる。

こうしたことをアニメなんてウソの極みのような表現でやってるのが面白くて、はっとする淡い色彩の美術などは当然、人物の顔なども今のグロテスクなまでに誇張された売れ線アニメ絵にはない顔立ちを特に序盤はしておりこれで世界に引き込まれる。また動きが良い。最も印象的なのは名付けの宴に激怒したかぐやが屋敷を飛び出し十二単を脱ぎ捨てながら疾走する荒々しすぎるシンプルな線画アニメーション。本作はリアリティとファンタスティックなシーンが両極端でここよりも浮世離れしたシーンはあるが、力強い感情を伴った点でこれ以上はない。他には堅苦しい屋敷から抜け出したかぐやが桜の下で回ったり、気晴らしに機を織ったり何気ないところまで生命を感じさせる躍動感で、高畑が言う初心の熱と才気を感じ取れる。それと声優。本作も他のジブリアニメと同じくアニメ声優は起用していないが、これが大体実写でのと同じ調子で演技しているのに全く違和感を覚えさせないのは、本作に受ける感触が誇張されたアニメではなく実写に近いからなのかもしれない。人の営みを丹念に描いているからこそ得られる生っぽさ。ガワだけ装って気取った深夜SFアニメには存在しないもの。

10年前に強く思ったのは翁の毒親で、これが悪い人じゃないので困る。贅沢な暮らしも官位のチャンスも、あくまでおまけで翁の願いは姫の幸せ。「お父様の願う幸せが私には幸せではなかったのです」かぐやは翁の真心を理解してなるべく応えてやりたくて自分を押し殺し無理をした。その結果の破滅。翁で印象深いのは赤子のかぐやが立ち上がった時に顔を歪ませて姫と呼ぶシーンで、ここの姫は可愛い娘に対する「私のお姫様」であり、金を手に入れ都に行ってからの姫は「高貴な姫君」としてのそれ。親としての気持ちはまだ十分にあるがどこか臣下となっていて、最初の姫が戻ってくるのは月に連れ戻されるその時やっと。翁の想定できる娘の幸せはあまりに限られており、そもそも父親が考えてやるのが余計なお世話でしかなかった。昔話ではあるが、今でもそんな珍しい話でもないだろう。翁に対して媼はストレスを感じてるかぐやの助けになろうとしていたが、彼女には実際にできることがあまりない。金持ちになっても畑仕事をしてる秀吉の生母 大政所のような姿は田舎から成り上がる子を持つ親同士で重ね合わせたのか。屋敷で両親よりもかぐやの心を慰めていたのが侍女の女童で、月に連れ去られるかぐやの感情を呼び覚ましたのは彼女の歌。親よりも友情の方が篤い。そうは言ってもかぐやに追い縋る翁と媼にはボロ泣きしてた。

身分制度への皮肉も痛烈。翁は都を指して言う。「山の連中とは住む世界が違う」と。教育係 相模に対してかぐやは「高貴の姫君は人ではないの?」と言う。そんな都ヒエラルキーの頂点として出てくるのが帝。顎が異常に尖ってて誇張されており滑稽な奴で、自分の女御になることが至福と信じて疑わない。しかしこんな奴は所詮辺境の島国のお飾り野郎に過ぎない。それ以上に力を持った本当に住む世界の違う人ならざる者たちには何もできない。そもそも何もしてない。かぐや防衛にいたと思ってたのだが、実際には遠くでフラれた公達と一緒にお月見してただけの無能。それが先述したアホ面してるんだから痛快。今の天皇、そしてコイツらを担ぐアホウヨ共に言ってるようだ。お前らの神輿は世界から見ればこんなもん。そして日本は別に大してスゴくないと。本作があまりTVで放送された覚えがないのは容赦なく天皇および日本スゴいをコケにしてるのがウケが悪いのかも知れない。そうでなくても高畑監督はオタクに好かれていない。宮崎のような活劇はなく美少女もいない。そして頭空っぽで楽しめ(ケッ)ない一定の知性を求められる。こういう作品を最後まで作り続けた高畑監督こそ日本が誇るアニメーション作家だ。今後の日本アニメに果たしてどれだけこんな作品が生まれるかね。私は漫画アニメゲームのオタクサブカルの中でアニメが一番嫌いなので滅んでくれた方がむしろ嬉しいですがね。