そばに居てくれるだけで幸せだった。
日は昇ってまた沈む。
街は、人は、日々変わっていく。
赤ん坊の寝返りすら打てない身体は、
明日には歩き出し、親に歓びを与える。
今日は駄目だった人もまた明日に希望を持って生きる。
明日を怖がる人もその先の未来に希望を持って生きる。
私には誇れる物がある。
私のなかに息づく音楽、私の育てた弟子、
そして私の身体が産み出した娘。
人生の黄昏時、愛する人たちに囲まれて過ごす。
こんなに幸せな事はない。
私はいつだって愛する人の希望でありたい。
それが今の私の生きる意味だから。
愛する人、あなたにとって、彼らにとって、この身体が、
只の負担でしかないものになってしまうなんて
私には耐えられない。
君に話したい話はまだまだあるんだ。
でもなぜだろう、言葉が出ないんだ。
大きな声を出せば疲れてしまう。
君を守りたい。
君を生涯守ると誓った。
でも、今はその誓いを守る日々が辛いんだ。
心が引き裂かれそうだ。
美しかった君を見るのが辛い。
大好きだった君の声を聴くのが辛い。
それは、君を愛してるから。
君と過ごす日々が幸せ過ぎたから。
彼らは僕らの過ごした時間を知らない。
僕らの心に宿る宝物を見つける事はない。
時が君をどんなに変えても
側に居て、見守ってやりたい。
君と二人きり。
それでいいと思っていた。
後悔なんてしていない。
ずっと側にいて欲しかったのは、僕の方だ。
人生は長く、美しい。
君が生まれた時、少女の頃を僕は知らない。
だから、せめて最期の時を、共に過ごそう。