YasujiOshiba

ジャッキー・コーガンのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

ジャッキー・コーガン(2012年製作の映画)
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2012年の映画だけど舞台は2008年、つまり、リーマンショックのただなか。サブプライム・ローンの破綻から始まり、それまで5%を超えるほどにGDPが驚異的な成長を続けてきた世界経済は、このころから一気にマイナスまで転がり落ちる。

この映画、どうやら、そんな世界金融危機のパラブルなのだ。マーキーの賭場は世界市場。賭場で楽しむ客はもちろん投資家。賭場への強盗事件はさしずめ金融危機だろう。予測できる危機なら、損ばかりではなく、儲けるものもいる。しかし、危機が常に予測できるわけではない。ときに欲望は暴走し、予測不可能な事態を招く。

原題の Killing them softly とは「連中をソフトに殺すこと」。不足の事態を処理するために呼ばれる殺し屋のジャッキー・コーガン(ブラビ)のセリフ。それまでの殺し屋なら、つべこべ言わずに相手を殺すのだけど、コーガンは、相手に命乞いされたり、泣きわめかれたりするのが嫌い。ちょうど、まるで融資金を引き上げる銀行員が、融資先に泣きつかれるのが嫌だと言っているようなもの。だから、彼は「ソフトに殺す」わけだ。銀行が「ソフトに融資を引き上げる」のと同じ。いずれにせよ、相手は死ぬのだから。

この映画のラストシーンでは、ちょうどテレビで、あのバラク・オバマが大統領選挙の勝利演説をしている。「アメリカンドリーム」を求め、「わたしたちはひとつなのです」と訴える。

しかしコーガンは、そのコミュニタリアン的な主張を笑い飛して言う。

「あいつは、おれたちがひとつのコミュニティで生きていると言いたいのか。笑わせるんじゃない。おれはアメリカで生きているんだ。アメリカでは、てめえひとりで生きるのさ。アメリカは国じゃない。ただのビジネスなんだよ」。

そんなセリフに続くコーガンの最後の言葉は「Now fucking pay me.」。ぼくはそこに、世界市場における剥き出しの暴力を見る思いがしたのだが、このジャッキー・コーガン、はたしてドナルド・トランプを見たらなんと言うのだろうか。
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