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ジャッキー・コーガンのGreenTのレビュー・感想・評価

ジャッキー・コーガン(2012年製作の映画)
2.0
世界的金融危機真っ只中に行われた2008年の大統領選挙を背景に、マフィアの殺し合いを描いたクライム映画と言われていますが、これはマフィア映画を装って「アメリカの本当の姿」を描くメタ映画だと思います。

マフィアの違法ギャンブル場の管理を任されたマーキー・トラットマン(レイ・リオッタ)は、店に大金があるのを見て、チンピラを2人雇って自分の賭場を強盗させる。何年かして賭場が復活したとき、マーキーは自分がやったと吹聴して回るが、お咎めは受けない。

ジョニーはフランキーとラッセルというチンピラを雇ってマーキーの賭場を強盗する。ジョニーは、マフィアはまたマーキーがやったと思って、他の人間を疑わない、マーキーが殺されて終わるだけだから大丈夫、とフランキーたちを説得する。

この事件の背景に、ブッシュとオバマの選挙演説が交差しながら話が進むので、絶対なにか政治的な意味があるのだろうなあと思っていたのですが、要するにこのマフィアのお互い盗みあい、騙し合い、殺し合う、という世界が「資本主義=アメリカ」と言いたいようでした。

フランキーはどうも刑務所から出たばかりだけど仕事がなく、刑務所で出逢った他の犯罪者たちと強盗を働くしかない。ラッセルはヘロイン中毒で、純血のペットを盗んでは売るという商売をして、ドラッグ・ディーラーになろうとしている。こういう犯罪を犯さない生きていけない人たちを生むのは、資本主義の弊害なんだ、ということなんでしょうね。

原題は “Killing Them Softly” で、「(彼らを)優しく殺す」という意味なのですが、これは資本主義はじわじわと、ゆっくりと、わからないように人々のクビを締めていく、のような意味なんだと思います。

そしてドライバーという普通のおじさん(リチャード・ジェンキンス)が現れて、ジャッキー・コーガンという殺し屋(ブラッド・ピット)に強盗を行った者を洗い出して殺せ、と司令を出すのですが、ドライバーは単なる連絡係で、本当の黒幕は出てこないんだけど、どうやら犯罪者ではなく、ビジネスマンらしい。

この「誰だかわからない」ところが肝なんだろうけど、イライラする。マーキー、ジョニー、フランキー、ラッセルなどの人物も、誰の話をしているのか、顔と名前が一致しない。

車の中で犯罪者たちが与太話をするシーンがすっごい長いのですが、ダイアローグがつまらなくて、出来の悪いタランティーノ映画みたいと思いました。

ジョージ・V・ヒギンズの原作小説では、乗っている車の車種によって社会的階級を表していて、車で女を比喩して語るとか、一般には知られないスラングがたくさん出てくるとか、こちらも読みやすい本ではないらしいのですが、セリフや与太話の内容が面白くないだけでなく、カット割りというか編集も上手くなくて、リズムがないなあと思いました。

特にジェームズ・ガンドルフィーニとブラッド・ピットの会話のシーンがひどいなあと思った。ガンドルフィーニはアル中の殺し屋で、酒を大量に飲みながら奥さんに離婚されそうって話を延々しているんだけど、時々ブラッド・ピットが映るんですね。で、なんか言うのかな?って思うとまたガンドルフィーニにカメラが戻る。で、またブラッド・ピットが映るんだけど、何も言わない。で、ブラピは、いつも同じ表情をしているだけ。同じカットを使いまわしているの?って感じだし、ブラピにカメラが移るタイミングがガクッとくるようなタイミングで、どういう編集なんだ?と思う。

レイ・リオッタが殴られたり撃たれたりするシーンの映像処理がなかなか変わっていて面白かったのですが、あれってなんだろ?グラフィック・ノベル風?面白いんだけど、映画全体の雰囲気と合ってないというか、一貫性がなくて浮いていると思った。

あと、全く音楽も音響も使わないシーンが延々と続くのだが、「なんかないの?!」って思った。映画って、視覚、聴覚両方使えるように出来ているのに、聴覚の方からなにもインプットがない。

背景もスカスカなんですよね。フォーカスされていない後ろに色んなイメージを投入することで深みが出ると思うんだけど、そういうところが全く計算されてない。

監督誰だよ?!って調べたら、アンドリュー・ドミニクって人で、『ジェシー・ジェームズの暗殺』が代表作みたいなんですけど、ななななんと私が大好きな『マインドハンター』のシーズン2のエピソードも何本か撮っている人だったんですよね!結構好きなエピソードだったので、「なんなんだこの違いは?!」って思った。脚本なのかな?

ラストはネタバレになってしまうと申し訳ないので、コメント欄で!
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