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本陣殺人事件のakrutmのレビュー・感想・評価

本陣殺人事件(1975年製作の映画)
3.6
金田一耕助シリーズの第1作となる横溝正史の推理小説『本陣殺人事件』の2度目となる映画化作品で、監督は日本のインディー映画の先駆者の一人である高林陽一。江戸時代に本陣だった旧家の当主が結婚初夜に新妻とともに密室の中で殺された事件の解明に、新妻の親代わりの叔父が呼び寄せたアメリカ帰りの探偵・金田一耕助が挑む。

灰色の羽織・袴にボサボサ頭という石坂浩二の映画・金田一や古谷一行のテレビドラマ・金田一のイメージとは異なり、平凡な洋装の金田一が登場するのは、私を含めてほとんどの人にとって新鮮かもしれない。しかし、一般に流布しているイメージは角川春樹の仕掛けによる横溝正史リバイバルで出来上がったものであり、本作を含めてこれ以前の金田一はそうではない。有名なのは片岡千恵蔵の金田一シリーズであり、その中では欧米映画に出てくるようなダンディな洋装の出で立ちの金田一が出てくるらしい(実際に映画を見たことがないので)。『本陣殺人事件』の最初の映画化である『三本指の男』をはじめ、『犬神家の一族』(映画のタイトルは『犬神家の謎 悪魔は踊る』)、『獄門島』、『八つ墓村』、『悪魔が来りて笛を吹く』など何本も制作されているが、すでにフィルムが消失している作品もある。

そもそも『本陣殺人事件』は横溝正史が日本家屋での密室ミステリーを目指して書いた作品であり、金田一という探偵そのものに重点は置かれていない。そういう意味で、本作の金田一耕助も事件を解決する探偵というポジション以上の重要さは感じられず、中尾彬もいたってニュートラルな演技である。また、トリックの実行性に疑問を投げかける批判もあるが、それらよりも市川崑の金田一作品に通じるような映像美やおどろおどろしい演出に注目すべきだろう。実際に『本陣殺人事件』という小説自体が、それ以降の金田一シリーズで前景化されていくさまざまな特徴---由緒ただしい旧家(ブルジョワジー階級)の没落、複雑でインモラルな人間関係、知的障がいを持つ若い女性、伝統文化に由来する道具など---の萌芽が認められる。特に、知的障がいを持つ旧家の次女・鈴子を演じた高沢順子の独特の雰囲気はとても印象的で、杉本一文による角川文庫の表紙を彷彿させる。でも、どっちが先なんだろう。
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