lapin2004

ジャーニー ドント・ストップ・ビリーヴィンのlapin2004のレビュー・感想・評価

4.0
アーネル•ピネダの歌唱を事前に聴くことなくこの作品を観てしまったJOURNEYファンは、オープニングで「Separate Ways」が流れ、途中で彼が唄っている映像に切り替わった瞬間にまず度肝を抜かれるだろう。これスティーブ•ペリーそのものじゃねーか!と。声が酷似しているだけではなく、その歌唱力の高さがよく判るアカペラで唄うシーンも何度かある。

彼の加入によりJOURNEYは“過去のバンド”から脱却する。ショウは次々にソールドアウト、新譜も出る。アーネルはプレッシャーを乗り越えヴォーカリストとして更に成長し、母国の英雄として凱旋ライブを成功させる。一時は離散していた家族を呼び寄せ、立派な家でかつてなかった幸せな時間を過ごしている。再び“あのJOURNEY”のライブを観られることになったファンは熱狂歓喜し、アーネルの設立した基金では多くのストリートチルドレンが救われることだろう。希望に満ちたエンディング…

このでき過ぎた“おとぎ話”を否定する訳ではないが、自分にはどうしても残るモヤモヤ感がある。

まず一つは「Don't Stop Believin'」に引っ掛けてだろうが、アーネルが「夢(成功)を信じて唄い続けてきた」かのように描かれている(というか宣伝されている)こと。彼にとって唄うことは夢とか成功とかいう甘いモノではなかったはずだ。彼にとって唄うことは生きるための手段であり、家族を養い日々を生き延びるために、必死に唄い続けてきたのだと思う。

「宝くじに当たっただけですよ」
「宝くじは運だけ。あなたには実力があったのよ。」

アーネルとアロヨ大統領のこのやり取りが本質だろう。それ以上でも以下でもないので余計な安っぽい作為を感じさせないで欲しかった。(周囲の喧騒の中、アーネルは実に冷静で、自分を見失わない男だと感心する)

もう一つは最後まで出てこなかった“現在の”スティーブ•ペリー。30年前の自分が書いたメッセージを、メロディを、30年前の自分と同じ声で「Don't Stop Believin'」と唄う男を、彼はどういう思いで見ているのか。かつての仲間たちを、熱狂するファンを、どういう思いで見ているのか。激励、無関心、皮肉、否定、恨み言、何でもいい、テロップ一行のコメントだけでいい、現在を生きるスティーブ•ペリーの思いを知りたかった。
それがないので、このドキュメンタリーは何か一面的に思えてしまうのだ。バンドのプロモーションビデオのような。。。
アーネルの実力は想像以上だったが、話としては想像した通りに進行し、想像した通りに終わった感じ。

素晴らしい音楽と貴重映像満載でファンならずとも興味深く観ることができ、ポジティブな気分になれる佳作ドキュメンタリー作品。だが上記理由にて1.0点減点の4.0点!
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