こたつむり

360のこたつむりのレビュー・感想・評価

360(2011年製作の映画)
3.8
♪ 欲しい 全部欲しい
  僕のためのもの それが君の中にあるから

連作短編集のような群像劇。
終盤まで地味な展開が続きますが、心の亀裂にジワリと浸透してくる物語でした。

それに音楽の使い方がとてもお洒落。
ウィーンやロンドン、パリなどの硬質的な風景と相俟って、思わず口角が上がるほどに良い雰囲気を醸し出しているのです。

そして、何気なく豪華な配役。
アンソニー・ホプキンスにジュード・ロウ、そしてレイチェル・ワイズが主人公ではない…という起用なのです。贅沢ですねえ。そんな実力者の中で、注目株はガブリエラ・マルチンコワ。とても素敵な表情で魅せてくれました。

また、劇中で“ムカつく”登場人物がいたとしても、それは作品を盛り上げるための措置。通常、それを評価の軸にしないのですが、本作は我を忘れるほどに“ムカつく”登場人物がいたので鑑賞を止めたくなりましたよ。

しかし、その人物の背景を思いやれば、心情に寄り添うことは可能ですし、その“ムカつき”を巧みに反転させてきますからね。監督さんの手腕に見事なまでに踊らされました。

さすがは『シティ・オブ・ゴッド』や『ナイロビの蜂』を仕上げたフェルナンド・メイレレス監督。厳しさと優しさが同居した視線が素晴らしく、酸いも甘いも噛み分けた大人の風格を感じました。

まあ、そんなわけで。
冒頭の引用は別の楽曲から戴きましたが、実のところ「まわるまわるよ、時代はまわる~喜び悲しみ繰り返し♪」なんて歌いたくなる円環状の物語。それは歪な形だとしても、その繋がりが人間の真骨頂だと伝えてくれる素敵なドラマでした。

それに、今日に絶望しても明日は来るわけで。
目の前のチャンス…手を伸ばしたほうが吉ですよね。えい。
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