クシーくん

大臣と影の男のクシーくんのレビュー・感想・評価

大臣と影の男(2011年製作の映画)
3.4
地味~な映画。仏白合作映画で、本国では評価が高かったらしいが、日本ではビデオスルーされる始末。無理もない。フランスの政治事情を扱った政治ドラマでかなりお堅い内容だ。フランスの政治事情に多少なりと明るくないとかなり厳しめ。かく言う私自身もさっぱりわからん。日本人にはまるで興味のない題材なのでは。逆に言えばこの映画にはフランス人は観ざるを得ない何かがあるのだろう。

主人公の運輸大臣を務めるベルトランを演じるオリヴィエ・グルメは日本にもよくいそうな顔立ちの地味な薄らハゲのオッサンで、“影の男”ことブレーンの相方はツルッぱげのオッサン(ミシェル・ブラン)。配役も地味だ。

運輸大臣のベルトランは自分の主張を安易に曲げず、公務員を擁護するため国民からの支持も高いが、慢性的な赤字を抱える国鉄の民営化問題を巡り対立する政治屋共の政争に巻き込まれていく。

どうも2020年には国鉄完全民営化?の予定があるらしい。公務員のクビを大量に切ることになるがマクロン本当に大丈夫か。この映画は2011年公開だが、フランス国鉄(SNCF)民営化の道程自体はかなり早い時期から築かれていて、路線、停車駅、列車の統廃合は赤字を理由に幾度となく強行されている。また、インフラの所有権を新設された施設管理会社であるフランス鉄道線路事業公社(RFF)に売却したSNCFは鉄道の利用料をRFFに支払わなければいけなくなる、民間会社の経営基準を国鉄にも適用させる等々、自由主義的競争のためインフラ関係を支える人々、それを利用している国民が犠牲になる。これはフランスに限らず自由主義路線を走る欧州諸国ではどこも似たりよったりの状況のようだ。
…などと、1割も理解できているかかなり怪しいが、ごく単純にまとめれば利益優先の政府と、利便性と職の確保を求める国民との深刻な対立問題に取り組む誠実な大臣の仕事ぶりを描いている。

政治家たちは本当に権力闘争しか脳がなくてうんざり。彼らはどっち側につくか、勝つか負けるかを考えていて自分達が動かす政治と国家の中に一人一人生きた人間がいることなど微塵も考えていないのだ。ベルトランは生きた人間を見る数少ない政治家で彼の奮闘と孤独ぶりは哀愁漂う。

しかし、込み入ったフランスの政治事情と考え一歩引いた形で観ていたが、考えてみれば今日の民主主義社会における世界共通の普遍的なテーマを扱った作品とも考えられるかも。

ちょいちょいシュールなシークエンスが挿入されているのだが、あれは監督の趣味か。何となく趣旨は理解出来たが別に要らないんじゃない?
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