真田ピロシキ

ブリーダーの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

ブリーダー(1999年製作の映画)
3.5
レフンの1999年作品。若手の鬼才らしい尖った自意識を随所に感じる。冒頭の各登場人物を右から左からそれぞれ音楽を変えて映すMV感。レンタルビデオ屋の横に並んだ棚をこうも立体的に撮る人はいない。そのビデオ屋店員が若いミケルセンでめっちゃカメラ目線でこっち見てる。しかも若ミケルセンなのにとてもキモい映画オタク。2階に置いてある古今東西有名監督の名前を長々と述べ連ねる姿は圧巻。説明してた客は映画は建前でポルノを借りたかっただけという面白いオチ付き。煮ても焼いても食えなさそうなの売れなかったらレフンもキモくはないにしても似たようなものじゃないかという気がしてならない。そういうレフンの投影を感じてたので、ミケルセンが何とか誘おうとしてるレアを演じるのがレフンの妻となるリブ・コーフィックセンな事に今では勝手に暗示を見て取れる。

物語は『オンリーゴッド』や『ネオンデーモン』等の現レフンに比べればずっと掴みやすい。恋人の妊娠による変化を受け入れられなかった男が陥っていく暴力地獄。流産させる所はミケルセンが挙げる監督に入っていたリンチの『イレイザーヘッド』のような気味悪さがある。他者を自分の人生に入れられない人達がテーマにあるのだと思う。アラブ人を排斥していた恋人のチンピラ兄貴やミケルセンと線が繋がっている。それらを目にしたからミケルセンは最後に違う一歩を踏み出せた。この変化をロマンチックに伏線も張ってから描けているのが悪趣味なだけの映画に留まらせない。

MV的だったり毒々しい色彩やバイオレンスが後のレフンに通じており比較的話が分かりやすいので「ドライヴは好きだけどその後のはちょっと…」というような人には本作の方が向いている。奇抜なだけでなく古書店の光など品の良い撮影もあり大物になるには相応の資質があるのだと思わされる。レフン、もう少し歳を取ったら対象層を広げた文芸大作とか撮るかもしれませんね。

ところであの兄貴は何で冴えない映画マニアの鑑賞会に参加していたのでしょう。実は相当の映画好きなのか。案外あの3人が気に入ってるのか。人は見かけでは分からない。