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殺意の夏のSPNminacoのレビュー・感想・評価

殺意の夏(1983年製作の映画)
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復讐に囚われたエル、家に閉じ込められた養父、被害者である母親。エルと家族はみな身体の尊厳と自由を奪われている。3人の復讐相手、3兄弟、ドイツ、フランス、イタリアの因果。犠牲になるのは女。エルを迎え入れたパンポンとその一家は何も知らない。
極度の近視なのにメガネをしないエル、耳が遠い叔母さんは、暗い過去を知りつつも本当のことは見えない暗喩のようだった。主観モノローグが入れ替わるのも、それぞれ限られた視点のすれ違い。知らないことは罪なのか、知らないが故に悲劇を招くのか。
闇を背負って生まれた娘、父親に対する愛憎と執着、自尊心の欠落、自ら欲望の対象を演じる空虚、情緒不安定な子ども…と、エルにはマリリン・モンローが投影されているのがわかる(だからこそ自分はバカじゃないと拘るエル)。結局、復讐は根底から無効化され全てを否定されてしまうし、女のために何でもすると言う男は自分のためでしかなく、悲劇は繰り返されるのだった。
発端の酷い事件や先生のエピソードはかなり陰惨残酷露悪的だし、救いがなく後味悪い話なんだけど、何よりもエキセントリックなイザベル・アジャーニ劇場。倫理観とか色々とブレて見えるのは時代のせいかしら。養父は当然の報いなのか、悲劇なのか曖昧で引っかかる。自転車ロードレースの場面がなかなかリアルだった。
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