ぴのした

しわのぴのしたのレビュー・感想・評価

しわ(2011年製作の映画)
4.2
数々の賞を総なめにしたスペインのアニメ映画。テーマは、「老いや認知症とどう向き合うか」。

重たいテーマだけど、正直むちゃくちゃよかった。御涙頂戴映画ではないのに、本当に泣きそうになる。

(仕組みはよくわからないが)三鷹の森ジブリ美術館ライブラリーの提供で日本でも公開したらしい。別にジブリが作ったわけではないっぽい。

主人公のエミリオは生真面目な元銀行員。しかしアルツハイマーにかかり、老人ホームに入れられることに。

そこで出会ったのは、老人たちからことあるごとにお金をだまし取るルームメイトのミゲルや、相手の言ったことをひたすら繰り返す元ラジオDJ、火星人が襲ってくると妄想する女性、ホームをイスタンブール行きの汽車だと勘違いして一日中窓を見ている女性、アルツハイマーでほとんど反応しない夫に付き添ってホームで暮らす夫婦など…。

ここでは、ひたすらに自分や、自分の妄想を信じる人々(エミリオもふくめ)、現実を見てズル賢く立ち回ろうとするミゲルの生き方が対照的に描かれる。

特に印象的だったのはやっぱりプールのシーンで、ここを境に今まで金に目ざとく自分勝手だったミゲルが、エミリオに同調していくようになる。

特に後半の部分、モデスト夫妻の幼いころの雲の話とか、ミゲルの最後のセリフとかすごく好き。正直泣きそうになった。

全体を通して、絵は軽いタッチでわりと面白く見れるんだけど、地面に落ちたタバコの火が消えるシーンとか、影がプールの中を満たしていくシーンとか、最後に雲が透けていくところとか、妄想の中の電車が遠ざかっていくのとか、細かい演出がかなり効いていて、シーン1つ1つの意味の密度が高い。アニメーションとは思えない濃度。

老いた人々は家族に忘れ去られて静かに死を待つだけの存在なのか、それとも妄想を信じて明るく生きることができるのか。重たいテーマだけど、わかりやすくてポップに見える映画。逆にこれが実写だとかなりしんどいだろうなあ。

物語の最後にある「今日の老人、明日の老人すべての老人に捧ぐ」みたいな言葉が重い。自分や家族にとっても人ごとではないというのを痛感させられる。

ところでこの映画の名前が「しわ」なのは、単に老いの象徴でもあるけど、アルツハイマーで表情をなくしたモデストやエミリオが、最後に見せる感情の表現「口角を上げて微笑む」→「しわを作る」、って意味とかかっているんだな。

つまり、老いてボケてしまっても(老いの象徴としてのしわ)、この人たちは「大事なことをちゃんとわかっている」(口角を上げて作る感情表現としてのしわ)っていうテーマに帰結するわけだ。深い。