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クスクス粒の秘密のemilyのレビュー・感想・評価

クスクス粒の秘密(2007年製作の映画)
4.5
港町セートの湾岸労働者で、チュニジア移民の60代の無口な男スリマーヌは職場でも疎ましく思われていて、元妻との間には子供も孫もたくさんおり大家族であるが、居場所はない。彼は船上レストランを計画し、恋人の娘リムが親身になってくれ、スリマーヌの言葉の足りないところを補ってくれるが、なかなか許可はおりない。そのため開店前にお披露目のパーティを開くことにする。家族総出で手伝い、クスクスは元妻が作るが、クスクス粒が見当たらない。それぞれ今できることをやり極地を抜け出そうとする。

「アデル、ブルーは熱い色」で話題を呼んだA・ケシシュ監督作。寡黙な男に対照的によくしゃべる女性たち。今作のほとんどが会話劇で成り立ち、そのほとんどがクローズアップで、それぞれの顔を捉えていく。移民族のコミュニティーが食事とともに繰り広げられる。

夫の浮気による夫婦喧嘩に、義姉や義兄などが干渉し、息遣いまで聞こえてくる、口論はリアリティがある。女のヒステリックな部分を随所で見る、特に長男と嫁の夫婦喧嘩には胸が苦しくなるが、その緊迫感と浴びせる言葉があふれだした水のように沸いてくるのが素晴らしい。

ドキュメンタリーのように会話の中の妙な空気感とそこに置かれる男性の刹那を映し出し、家族の団結の強さを見る。そんな不穏感を払拭するようにアラブ音楽が動きを出し、陽気な空気を流していく。そうして後半にかけては、静かに淡々と進んでいた前半から畳みかけるように、皮肉に物語が転がり始める。家族総出で協力するが、長男の行動によりクスクス粒がないというピンチに。全員ができることをする。それは自然な行動で、どんなに文句を言っていても、家族が深い愛で結ばれていることを、リブのベリーダンスで見ることになる。

彼女はこのベリーダンスのために15キロ太ったそうで、その立派なお腹のアップに魅せられる。顔よりも腹のアップ。そのインパクトは見終わった後もずっしりと脳裏に残る。ふくよかだが引き締まっている、そこから滴る汗、細やかな動き、そうして揺れる肉体に全員が釘付けになる。ふくよかな肉体美、生ぬるい空気が画面越しにも伝わってくる。

父がバイクを追うところはクローズアップではなく、しっかり動きを見せる。だからこそ、その動きの中でぷっつりと切られるようにラストを迎える、その突き放した感がたまらなくいい。一方で音楽とダンスが響き、滴る汗。なんとも言えない人生の皮肉と普遍的な人間の”生きる”様を見る。人のいろんな側面が交わり、生み出される奇跡も悲劇も、それもまた人生なのだ。
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