TA

スノーピアサーのTAのレビュー・感想・評価

スノーピアサー(2013年製作の映画)
3.8
 世界崩壊後の雪に覆われた大地を走る一台の列車『スノーピアサー』を舞台にした SF ディストピア革命物語。
 キャストが個性的で存在感の強い面々を揃えており、各々が自己のキャラクターを主体的に演じている様だけでも観ていて飽きない。何よりティルダ・スウィントンが楽しそうで見ているこちらが嬉しい♪
 『グランドブダペスト・ホテル』でも特殊メイクと演技で誰だか分からない程老け込んだ金持ちの老婆を演じた彼女は、本作でとても厭~なおばさんを嬉々として演じ、観終わった後も彼女が脳裏に浮かんで困っています(*´Д`*)

 舞台は2031年。17年前に散布された地球温暖化抑制のための化学薬品が予測を大幅に超えた気温低下を招き、全てが凍り付いてしまった世界。
 その時走っていた、世界を一つのレールで繋ぎ走り続ける1台の列車。そこに人々が群がったことによって彼らの間に階級が必然として生まれ、上流階級が先頭に近い車両を支配し、労働者階級は後方の車両に押しやられた。そして上流階級の者によって制度が敷かれ、そこに新たな社会が築かれる。
 下層階級には、もはや人権などない。
 唯一の希望は革命。目指すは先頭車両。信仰の対象たるエンジンと列車を所有し、この閉ざされた世界を支配する一人の男が住む場所。

 『キャプテン・アメリカ』のクリス・エヴァンスが演じる主人公はこの最下層からかねてより革命を企てており、いよいよ決行を目前に控えたところから物語は始まるが、この最下層の酷い生活の様子や圧政による抑圧ぶりが過剰な程非人間的に描かれていて、物語の始まりに観客を主人公の怒りに同調させるには十分な演出だった。リアリティの追求という単純な側面のみで観るとあまりに極端に映るかもしれないが、物語の設定から既に風刺的であることを考えれば寧ろ潔い描写で、キャストの好演も奏功して世界の構図と各々の鬱積した感情と目的、動機が短時間で理解でき、この「一目瞭然感」が物語の掴みとしてはとても良心的で引き込まれる。

 世界の作り込みに関して言うと「例えば世界を列車に置き換えて説明すると…」をそのまま映像化した印象で、世界観として奥深くはなくても解り易い。
 それでも印象に残った作り込みとしては、物語中盤、下層階級に対して配給される食糧の正体が明らかになる場面において、主人公がある人物に「これを描いとけ」と指示するシーン。彼は最下層の群衆の中でひたすら絵を描くことを役割とするキャラクターだ。彼はそこに住む人々や出来事を客観的に記録する役割を与えられている。単に薄汚れた下層階級の民を映画的に描写するだけなら、土系の配色が施された空間と服、無気力ながら不満を湛えた表情があれば事足りるのだが、この「記録係」には、抑圧された現状を ”過去 ” の産物にしたい想いが投影されており、彼らの革命に対する感情の鬱積に係るリアリティを後押ししていたように思う。

 映像表現において残虐な描写もあるが、スローモーションで繋ぐシーンは感情の動きと画を一体化させ、更にそこで起こっていることをいかに美しく撮るかという主眼で編集された意図が見えて、即座に目を背けたくはならない。それどころか途中で差し挟まれる「ハッピー・ニュー・イヤー」が笑いを誘い、良くも悪くも映像の暴力性は中和されている。

 関係ないが、先頭車両を目指す過程で訪れる「水族館とスシ車両」は ” 口減らし” の分かり易い描写であるものの、黒人板前と登場人物の面々がカウンターに座って ” ジャパンっぽいスシ ”を食すシーンはあまりにシュールで、もし地上波で放送されるなら「これ要らなくない?」と確実にカット対象だろう。

 本作は革命ものとしてリアリティよりも戯画的な描写を徹底しているだけに、リアル志向の人には受け付けない傾向があるものと思う。
 しかしフィクションでなければ伝わらない真実もある。一般的に作品の評価は決して高いとは言えないし、私自身もっと救いの無い結末を期待していたところもあったのだが、革命の持つ裏面性を正直に描いているところに好感を持っている。

 物語のように下層階級民による底辺から突き上げる純粋な怒りに身を任せては、上から注がれる哀れみの視線が何を意味しているか理解できないし、世界の本当の姿も見えてこない。
 そして口当たりの良い「自由・平等・博愛」を掲げ、純粋にそれを求めて始めた革命であっても、その直後に訪れる終わりの見えない混沌との対峙が孕む恐怖について気に掛ける者はいない。
 戦いの後、初めて訪れる虚無感。
 新たな ” 体制” の必要性を実感し、実際に私たちの世界にも独裁であった方が安定していたと嘆く者もいる。
 それでも戦うことを選ぶなら、知らずに済んだ真実を受け止める覚悟と責任が生じるだろう。

物語の最後、映される画が観るものに示す未来は少なくとも暗いだけではない。
これから生きていく世界について一つの希望を暗示するもので、世界は広く、そして白く、美しかった。
TA

TA