カッチェ

タイピスト!のカッチェのレビュー・感想・評価

タイピスト!(2012年製作の映画)
3.7
感想①「タイプライター早打ちという面白い題材」
1950年代のフランス。女性にとって憧れの職業が秘書であり、タイプライターの早打ち大会で優勝することが最高のステータスだった時代。田舎で父が営む雑貨店を手伝っていたローズ(デボラ・フランソワ)は、地元で縁談を持ち掛けられていてうんざり。
そこでローズは人生を変えたくてパリへ。ルイ(ロマン・デュリス)が経営する保険代理店の秘書の面接を受け、必死に自分を売り込みなんとか試験的に採用される。しかしドジで不器用な彼女は、失敗ばかりして早々にクビ寸前。ローズに何か取り柄がないかと悩んだルイは、彼女の唯一の特技であるタイプライター早打ちの能力に注目し、早打ち競技大会で勝ち進めば秘書として採用すると提案する。

タイプライター早打ちって映画の題材として地味じゃないかと思いますよね?実際、1950年代では女性にとって最高の自慢できる武器だったのでしょうが、映画の題材としてあまり使われてないので、絵面的に地味なのかもしれません。でも「タイピスト!」は、まるでスポ根のような熱い展開と恋愛要素をうまく融合し、全体的にはお洒落で可愛らしい雰囲気がずっとキープされているので観ていて楽しかったです。

感想②「面接シーンが面白い」
時代が違うからなのか、日本と違うからなのか、ルイの保険代理店の面接に来る女性達の服装がみんな違っていて面白いです。その中でもドヤ顔で面接について語っている女性二人が良い。
眼鏡は基本中の基本で目が悪くなくても伊達眼鏡で来るべきだと、そうすれば真面目で地味な印象を持たれるから良いそうだ。あとは自然なメイクにきっちりとまとめ上げた髪型、香りはあった方が好感度は高いから香水は控えめにつける。そして服装はとにかく控えめ。
ドヤ顔で語ってる二人の視線の先にはローズの姿。金髪で真っ赤な口紅、花柄の白いワンピースで来た彼女は確かに浮いている。雑誌を読んで平気な振りをしていたのに、急にハンカチを出して口紅を拭うローズが可愛い。

感想③「タイプライターシーンは迫力あり」
面接に落ちたくないローズは、親に内緒でずっと店のタイプライターで練習していた成果を見せつける。自己流のため、両手の人差し指だけで打つ彼女。ブラインドタッチできない人がよくやる戦法。しかしそのスピードは尋常ではなく、束ねていた髪の毛は解け、ワンピースの肩部分がズレてブラ紐が見える(笑)打ち終わった書類を見せてドヤ顔で前髪をフーっと吹き上げるローズ。あれ、これって世界共通の行動なんですね。前髪フーは私の中では、SMAPの中居くんのイメージが強い(笑)

150人が参加したオーディションでローズ役を勝ち取ったデボラ・フランソワですが、オーディション前に父親の職場からタイプライターを借りて猛特訓した努力家です。撮影前の半年間は毎日2~3時間もタイピングトレーニングをし、映画の全てのタイピングシーンはなんとデボラが自ら演じてます。スタントなしで、おまけに映像の早送りといった編集もしてないそうで、彼女の役作りの素晴らしさが分かります。

感想④「あらゆる面でパートナー」
一本指打法から10本指で打てるように、さらにはブラインドタッチ出来るように特訓する為、ローズを自分の屋敷に住まわせるルイ。これをきっかけ、二人の関係に徐々に変化が訪れ、恋愛要素と世界一のタイプ早打ち大会を目指すサクセスストーリーが展開していきます。

ただの経営者と秘書だった関係が、特訓と奇妙な同居生活を通じて互いの真実の姿に気付いていき、世界大会を目指す為のパートナーから人生のパートナーへと変化していく様子を丁寧に描いています。もちろん、簡単に物事はうまくいきません。障害がたくさんあって、すれ違ったり別れたり、不器用同士の二人の恋。途中、この映画の雰囲気に合わないベッドシーンはちょっと必要なかったと思いますが(笑)恋愛映画としても可愛らしくロマンチックな王道的作品です。

感想⑤「映画を観てるだけでお洒落な気分に」
オープニングからお洒落で可愛らしいこの映画。主要人物以外の服装や髪型もお洒落で、観ているだけで楽しくなります。特訓に使われるルイの屋敷もとにかく素敵で、ローズの部屋も女性なら憧れてしまうような可愛らしさ。キッチンまでお洒落で可愛らしいなんて、フランス映画は凄いですね。

監督はデボラに、オードリー・ヘップバーンの「麗しのサブリナ」「昼下がりの情事」「パリの恋人」「マイ・フェア・レディ」を観て意識するように指示。またマリリン・モンローも参考にして、50年代の女性達の体型や立ち振る舞い方を理解するように指導したそうです。
ファッションだけではなく、音楽も素晴らしく、スクリーンのあちこちにはこの時代の映画のオマージュもたくさん盛り込まれているそうです。2012年製作ながら幅広い年代の方が楽しめる華やかなサクセスストーリーです。
カッチェ

カッチェ