KnightsofOdessa

アリ・ザウアのKnightsofOdessaのネタバレレビュー・内容・結末

アリ・ザウア(2000年製作の映画)
2.5

このレビューはネタバレを含みます

No.999[子どもたちが親友の死を受け入れるまで] 50点

親友とアフリカ映画の話で盛り上がったので、私も色々観てみようと思って下半期の目標はロシア映画とハンガリー映画にアフリカ映画を加えることにした。本作品は、フランスで生まれ育ったモロッコ人映画監督ナビル・アユチ(Nabil Ayouch)が最初に有名になった作品である。アユチは1969年4月1日、モロッコ人ムスリムの父とチュニジア系ユダヤ人の母の間にパリで生まれ、サルセルで幼少期を過ごした。パリで三年間映画について学んだ後、広告会社Euro-RSCGで脚本家・監督として働き始める。1992年、ジャメル・ドゥブーズと共に短編『Pierres bleues du désert, Les』を撮って以降、『Hertzienne Connexion』(1993)と『Vendeur de silence』(1994)という二本の短編を撮り、1997年『Mektoub』で長編デビューを果たす。1999年にはAli n'Productionsという若手監督を支援する製作会社を設立し、若手監督のキャリアを支援している。そんな彼が2000年に撮った長編二作目が本作品である。

モロッコはカサブランカの湾岸地域にて。主人公アリへのインタビューで幕を開ける。女性インタビュアーに昨日夢に見た美しい女性について語り、自らの出自も明らかにする。彼はストリート・チルドレンであるが、親が居ないわけではなく、黒塗りの高級車に乗ったおじさんに自分の目を売られそうになったので逃げてきたというのだ。12,3歳の彼には船乗りになって自分の"島"で暮らしたいという夢があり、ディブと呼ばれる年長の男が組織するギャング団から仲間と足を洗おうとする。対峙するディブたちとアリたち。すると、ギャング団の誰かが放った石が頭にぶつかり、あっという間に呆気なく、アリは亡くなった。前半10分のことだった。

残された三人の仲間Kwita、Omar、Boubkerは、取り敢えずアリの亡骸を持って逃走するが、警備員にバレそうになって港の空きスペースに放置してその場を離れる。一人苦しんでいたKwitaは残りの二人にアリの葬式を提案し、それぞれがもがき苦しみながら葬式を成功させようとする。まず、Kwitaは礼拝堂に行くが信心深くないからと断られ、セイラー服を借りようと海軍本部を訪れるが彼らにも蔑まれ、財布をスッた金持ちそうな少女に恋するも相手にされず、アリが本当に船乗りになろうとしていたことを船長のおじさんハミッドから聞いて再度悲しみの淵に立たされる。Omarはアリの母親に報告に行くが蔑まれ、彼女は狂っていた訳ではなく娼婦であり、逆にアリを棄てたと思っていたのに彼の部屋まで用意していた暮らしに嫉妬する始末。幼いBoubkerは自発的には何も出来ないので、不機嫌になる二人を明るく支えている。

アリに一番近かったKwitaが強迫観念に駆られたかのように、葬式に取り憑かれていくのは見応えがある。しかし、他の二人によって幾度となく試みは違う方向へ転がり、映画もそれごと転がっては、Kwitaの"アリを埋める!"の一言で軌道修正するのを繰り返す。無軌道さと無駄の多さについて、それが子供だからと納得させることは出来ても、映画まるごと無茶苦茶になって良いわけではない。結果的に中盤のダレ方が尋常じゃなくなってしまっている。

しかし、三人という構成は非常に上手い。正反対の意見に中立という三角関係にBoubkerという幼い少年を加えることで、非常に現実的でシビアな映画にイノセンスとファンタジーが無理なく加えられる。アニメーションでアリの幻想が語られるマジック・リアリズム的な演習を観るのはどれもKwitaなんだけど、最終的に全員が共有するのも上手い。

OmarはBoubkerを引き連れてKwitaとは別ルートを歩き回り、全てをアリのせいにしてディブのもとに帰ろうとしたり、アリの母親と疑似的な親子関係を味わってみたりを経験することで考えないようにしていたアリの死についてよく考えるようになり、ディブ一派との小競り合いを経て、Kwita一強だった三人の関係は漸く対等になり、。三人がハミッドの船の上で空を眺めながらアリの話をするシーンは夜空にアニメを投影するマジック・リアリズム的演出も相まって、涙なしには語れない。

全てを受け入れ、前に進むことを模索し始めた彼らに神は優しかった。セイラー服(コスチューム)も手に入り、アリの母親とも和解し、ディブ一派とも言葉を越えた理解に漕ぎ着けたのだ。アリの亡骸を乗せたハミッドの船はKwita、Omar、Boubkerとアリの母親を乗せて、地平線へ向けてゆっくりと進みだした。

ちなみに、ポスターだとOmarがパンツを被っている。本編でも一瞬だけ登場するが、なんでパンツを被っているかは明かされなかった。この少年はあまりにも自然にパンツを被ってた。てか、パンツは全く関係なかった。
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