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ある過去の行方のkotchanのレビュー・感想・評価

ある過去の行方(2013年製作の映画)
4.0
アスガー・ファルハディ監督作を『別離』『彼女が消えた浜辺』に続き観たわけですが、3作目ともなると独特の作品性には随分と慣れてきて、それがむしろクセになっているような気もする。もっと言えば「かなり好き」になってしまったかもしれません。
以前テレビで坂上忍氏が同監督の『セールスマン』を絶賛されていて是非とも映画館で観たいと思っていたのですが、監督の名前も存じ上げず、作品を深く理解できる自信がなかったので見送ることにした経緯があります。これまで3作品を観てきた今なら大丈夫じゃなかろうか。そんな思いに至り『セールスマン』をどこかのタイミングで観ようと思っています。

過去2作品同様、あまり多くを語らずあまり多くを観せないため情報量は少なく、難解な作品と言うより想像の余白が多い作品。独特の切り口で家族の日常を描き、人間の深層心理をグリグリ抉って本音を炙り出し、隠れた秘密を暴き出す手法は変わらない。
連れ子同士の再婚をメインに据えて、そこに夫婦の離婚や母娘の確執といった家庭の諸問題をうまく絡め、少しずつ真実に迫っていく。

原題The Pastは特定の過去の出来事を指しています。当初は再婚自体に何かしらの弊害、もしくは再婚相手の男性側に問題があるのかと思っていましたが、このThe Pastこそが今作の本題であり、後半はここに照準を合わせて過去の真実が少しずつ明らかにされていきます。
この過去の出来事に関わる者たちが翻弄される展開をサスペンスタッチに描き、一気にテンポアップして気がつけば作品に引き込まれている。これがアスガー・ファルハディ監督のマジックなのだろうな♫
衝撃の真実とまではいかないものの、思いも寄らない方向に進む展開にはやはり気持ちが落ち着かない。結果としては真相が明かされないままの終幕。と言うより「明らかにはできない」のが正確な表現です。
今作もいくつかの謎を残したままでモヤモヤしますが、最後に希望を抱かせてくれるのはとても受け入れやすい。ラストカットにエンディング曲を流す演出にグッときます。

夫として父としてパリに戻ってきた男は"赤の他人"になって帰国の途につきます。離婚手続きのためだけのはずが、母と娘の関係修復と家族の再生に尽力したのは間違いない。自分の役目を終えたかのようにパリを去る後ろ姿に、哀愁を感じない人がいるだろうか。
人生とはなんと残酷なのだろう。
彼にとってのThe Pastはきっと4年前に帰国した理由なのだろうけど、結局それが語られることは残念ながら無い。

妻であり母であるマリー=アンヌを演じたベレニス・ベジョの鬼気迫る芝居に圧倒されます。彼女と口喧嘩したら絶対勝てないだろうな(^_^;) ってくらいの迫力で罵詈雑言を浴びせられたら心を病むかも…
笑顔がとても素敵な女優さんなんですけどね(*´∇`*)
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