サマセット7

アナと雪の女王のサマセット7のレビュー・感想・評価

アナと雪の女王(2013年製作の映画)
4.0
ディズニーアニメーションスタジオによる53作目の長編アニメーション作品。
監督は「ターザン」のクリス・バックと、「シュガーラッシュ」(脚本)のジェニファー・リー。

[あらすじ]
アレンデール王国の王女エルサは雪と氷の魔法の力を持っていたが、妹の王女アナを能力故に傷つけたことをきっかけに、力を世間に知られぬよう、長年に渡り城に閉じ籠り生活していた。
両親が他界し、エルサは女王として即位することとなり、国を挙げた戴冠式の中、エルサは久しぶりにアナと再会する。
しかし、アナが戴冠式の日に出会った他国の王子ハンスと婚約したと聞かされ、エルサが反対し口論となったことをキッカケに、エルサの魔法の力が暴走する。
王国は氷と雪に閉ざされ、動揺したエルサは雪山の中に消えてしまう。
王国と姉を救うため、アナはエルサを追って雪に覆われた山に入るが…。

[情報]
2013年のディズニー映画。
ファンタジー・ミュージカル・3DCGアニメーション作品。

2000年以降興行的に苦戦していたディズニーアニメーションスタジオは、2006年、3DCGアニメーションを駆使してヒット作を連発していたピクサーを合併により取り込み、アニメーションのクリエイティブ部門のトップに、ピクサーのトップ、ジョン・ラセターを招聘。
5億ドルを超えるヒットとなった2010年の「塔の上のラプンツェル」を筆頭に、3DCGアニメーションに本格的に着手し、「第二のディズニールネッサンス」と呼ばれる第三の黄金期を迎えつつあった。

そうした中2013年に公開された今作は、1億5000万ドルの予算で製作され、12億7000万ドルの世界的な大ヒットとなった。
主題歌「Let It Go」は、社会現象的なヒットとなり、アカデミー賞歌曲賞を受賞。
今作は、アカデミー長編アニメーション賞を受賞した。
日本でも記録的な大ヒットとなり、2022年現在で、歴代興収ランキング第4位。
この記録を上回るのは、鬼滅の刃、千と千尋の神隠し、タイタニックのみであり、「君の名は」や「もののけ姫」をも上回っている(こう並べると、日本でいかにアニメが強いかがよく分かる)。
まさに、第二のディズニールネッサンスを象徴する一作となった。

今作は、アンデルセンの童話「雪の女王」にインスピレーションを得た、とされるが、ストーリー、キャラクター等、全くの別物であり、ほぼオリジナル作品である。

当初は、雪の女王エルサがいわゆるディズニーヴィラン(敵役)となる、善と悪が対立するストーリーが構想されていた。
しかし、エルサ用に作曲家ロペス夫婦により作られた楽曲「Let It Go」があまりにも名曲かつ印象的な歌詞を有していたため、脚本・監督のジェニファー・リーと共同監督のクリス・バックが協議し、この曲を柱に、エルサとアナの姉妹の絆に焦点を当てたストーリーに大幅に変更された、と言われている。

今作の音楽は、ロバート・ロペス、クリステン・アンダーソン=ロペスの夫妻がオリジナル歌曲を(サントラ収録は10曲)、クリストフ・ベックが歌曲以外のスコアを(サントラ収録曲22曲)を担当した。
今作のサウンドトラックも大ヒットとなり、全世界400万枚以上を売上げ、ビルボードチャートで1位も獲得した。

今作は「第二のディズニー・ルネッサンス」に特徴的なことに、現代的な女性の主体性を描くものとなっている。
伝統的な「王子様に(受動的に)救われるお姫様」という「お約束」を解体して、自らの手で幸せを手繰り寄せる女性像を表現し、ディズニー映画による自己批評を含む作品と評価されている。

今作は批評的にも、批評家、一般層ともに、高く評価されている。

今作の共同監督、脚本家のジェニファー・リーは、ディズニーアニメ映画における史上初の女性監督となった。
2018年、彼女はジョン・ラセターの後任として、ディズニー・アニメーションスタジオのチーフ・クリエイティブ・オフィサーに就任。
実質的にディズニーアニメのクリエイティブ関係のトップに立っている。

[見どころ]
圧倒的な歌曲の威力!!!
レリゴーの強制的感動喚起力!!!
その他の曲も、どれもこれも粒揃い!!!
これまでのディズニー作品のお約束をミスリードにするという、革新的脚本!!!
大人も感動する深いメッセージ性!!
子供も大喜びの、可愛らしいキャラクター!!
日本語版もオススメ!!

[感想]
名作!!!

劇場も含め何回か観ているが、久々に見返してもグッときた。

今作が私を含む多くの人を感動させたのは、なぜか。
歌曲の偉大さを含め、色々な理由はあろうが、「生まれもっての性質により、社会から隔絶され、孤立し、酷い目に遭って苦しみ、何とかその性質と折り合いをつけようと無理をして我慢を重ねてきた1人の人間が、自分を解放して、独りで生きて行こうと覚悟した姿」に共感したから、に尽きるのではないか。

すなわち、内面化された抑圧からの自己の解放。

その覚悟は、誇らしいと共に、現状に背を向けるものであるが故に、どこか哀しい。
この複数の感情の混合が、圧倒的なレリゴーのメロディーと合わさって、心を震わせるのではないか。

家族や社会との関係で、何らかのしがらみや生き辛さを一切感じずに生きられる人がいるだろうか。
誰もがもっている、不安や苦しみから抜け出したいという願望に、今作のエルサの姿が刺さったのではないか。

実のところ、今作の中で、エルサを中心としたストーリーラインは一部であり、中心となるのは、アナとクリストフ、オラフのラインであったりする。
感動の中心はエルサだが、物語の中心はアナ、というやや捻れた構図となっているようにも見える。
だが、アナのパートは、エルサに抱いた共感や感動を、邪魔しない。
これはディズニーアニメ一流の、テンポの良さや挿入歌の質の高さ、アニメーションの動きの面白さ、各キャラクター自体の魅力、全体としての尺の短さによるところも大きいだろう(102分)。
アナ、クリストフ、オラフがそれぞれ、多かれ少なかれ、エルサのテーマと共通する生き辛さを抱えていることも、全体としての統一感に寄与している。
アナが陥る危機をいかにして救うのか?という、終盤の展開の顛末は、エルサの自己解放の結末に収斂する仕組みとなっている。

伝統的なディズニーアニメの流れである、ヒロインが悪者から酷い目に遭うが、ヒーローと力を合わせて苦境を脱し、悪者を退治するというお約束は、今作では、メタ的に観客を欺くミスリードとして機能している。
その結果、エルサとアナのダブル主人公のハッピーエンド自体が、ある種のツイストになってしまうのも面白い。

観終えてから振り返ると、全体として楽しんだが、今作の感動のピークは、前半のレリゴーのシーンだった、という感じも否めない。
これは、あまりにもレリゴーのシーンが良すぎる、ということもあるが、終盤の展開や演出がやや急ぎ過ぎなのかもしれない。
せめてミュージカルアニメらしく、終盤の感動シーンに一曲キラーチューンがあればまた違ったかとも思うのだが。
とはいえ、十分感動的で、興行的な大成功や、ディズニーアニメとしての歴史的意義も込みで、名作との評価は動かない。

[テーマ考]
今作は、シスターフッドの映画として語られることが多いようだ。
結末は象徴的だろう。
すなわち、女性の幸せは、男性や社会により「与えられる」ものではなく、自らの意志と、家族や女性同士の連帯によって、獲得するものだ、ということが、テーマとなっている。

他方、エルサの立場を、少数の弱者、マイノリティとしてみて、アナをマジョリティ代表と位置付けると、今作をマイノリティとマジョリティの融和の物語と読むことも可能だろう。
この視点から観て、抑圧する側に意図せず属してしまったマジョリティが、虐げられたマイノリティに対してできることは何か、という問いを読み取ることも可能だろう。
その答えは、今作のアナの行動全般、特に序盤と最終盤の行動によって示唆されている。
一言で言うと、ディズニー映画のど定番のアレだ。

[まとめ]
世界的大ヒットとなり、ディズニー新時代を代表する、10年代ミュージカルアニメの名作。

日本語版の一部の声優のその後を考えると、やるせない思いや哀しい思いは拭えない。
しかし、何があろうと、作品の素晴らしさは変わらない。