ninjiro

アナと雪の女王のninjiroのレビュー・感想・評価

アナと雪の女王(2013年製作の映画)
3.2
女の敵は女、からの脱却。


本レビューは、昨日markした「塔の上のラプンツェル」からの続編となるものである。
出来得れば、そちらも参照されたい。


これまでの正統派ディズニープリンセスシリーズには、必ずと言っていいほど、女性の敵役が活躍するという伝統があった。
「白雪姫」は継母である女王、「シンデレラ」ではまたしても継母、「眠れる森の美女」では魔女・マレフィセント、「リトル・マーメイド」では魔女アースラ、そしてその正統な後継としての作品、「塔の上のラプンツェル」ではマザー・ゴーテル。

ここでいう「正統派」とは、飽くまでプリンセスが第一の主人公であり、その敵役と正面から対峙するという役割を負わされるという要件(私が勝手に作った)を備えたもの。
この要件により、例えば「アラジン」のジャスミンなどは、同作にアラジンという男性主人公が存在するという部分で除外され、同じく「美女と野獣」のベルも、野獣の存在により対象から外れる。

直近の「ラプンツェル」までその伝統の構図は綿々と保たれ、女性の敵は女性であり続けた。

それは、穿った見方をすれば、女性を現実に搾取するもの=男という現実の構図から照準をそらせるための代替構造としての役割もあったかも知れない。

ディズニーのマーケティングが的確であり、正に時代を映す鏡として機能しているという前提で語るなら、本作がこの伝統=法則を無視して成り立っていることに、何らかの意図を感じずにはいられない。

本作の直近作「塔の上のラプンツェル」では、活動的で強い新しいヒロイン像を鮮明に印象付けたが、それにも増して、本作では最初からダブルヒロインの構造、片方が敵役の様な役割を演じるが、それはヒロインの実の姉であり、これまでのように、例えば継母のように、血の繋がりをギリギリ回避するような細工もなく、最初から最後までお互いが本質的な部分では融和の姿勢をとり続けており、言って見れば伝統的構造をフェイクする為の立場、本来の敵役ではなく、実際のところはまさにもう一人の主人公である。

しかも、まあ広く知られた本作に関しては今更感もあるが、ネタバレにはなるので、一応小さい声で言うが…

…物語中盤で、遂に男性が本当の敵役だったというオチが語られるのだ。

普通の物語ならそんなものは当たり前の事だが、これはディズニーの、しかもプリンセスシリーズの最新作である。

ヒロインを直接攻撃する立場の「男性」が現れたという事実に、まさに前回「ラプンツェル」のレビューで語ったディズニーのマーケティングの結果を見るのである。

「女の敵は女」という単純な構造から脱し、今回は一応シンボル的に「男性」を一部の敵役としながら、雪に包まれた王国の象徴する憂鬱はもっと根深く、広いものだ。

大いなる力を手にした一人間の発した意思により、世界は雪に閉ざされ、人々の暮らしを立ち行かぬものとする。
作中その立ち行かなさ加減は、殆ど主人公らの一人称でしか語られないが、現実問題としてみればとんでもない負の影響である。

この負の影響自体が真の敵役だったと仮定して、ディズニーがその的確なマーケティングの末作り上げた本作で伝えたいこととは

一体何だったのだろう?


ディズニーの執心する、今般の各国語対応という姿勢は、時にその言語の壁を越える際に作品自体の改編とも言えるような変質をもたらすことがある。
本作でも、例えば大層話題となった松たか子が歌う「ありのままで」を日本語吹替の為に、意訳からも遠いような歌詞をオリジナルで新たに作ることで対応した。

しかし、元の詞の持つ禍々しいフラストレーションを存分に再現できたかと言えば、答えはNOである。NOT AT ALLである。

色々ありすぎて困るが、例えば
the wind is howling like this swirling storm inside
が、
かぜーがこーこーろにさーさーやーくーのー
とか、
couldn't keep in ,heaven knows i tried
が、
このままーじゃだめなんだーとー
とか、
そもそもサビの
let it go,let it go
can't hold it back anymore
turn away and slam the door
i don't care what they'er going to say
みたいな、かなりイライラ値が頂点に達した状況を表してからの、ドバーっとした開放感は、
ありのーままのー
みたいな感じとはかなりギャップがある。

誤解しないで頂きたいのは、私も松たか子の歌唱は素晴らしいと思っているということ。
しかし、メロディにキレイに歌詞を載せるために捨てた大事なことが多過ぎることが問題である、と言いたいのだ。

あと何となく予告とあらすじの段階から予測されたことだが、前段となる雪の女王誕生譚までとその後の解決編の面白さの温度差が物凄いことになっていて、何だか切なくなる。

それでもディズニー!
勝手なお願いですが今後とも応援させて下さい‼︎
ninjiro

ninjiro