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事件のRのレビュー・感想・評価

事件(1978年製作の映画)
4.6
野村芳太郎監督の作品は、同じ好きなものを何度も見るというスタンスで今まで生きてきたのだが、見てるやつは全部好きなんやから他のも好きになるに決まってるだろうということで、今後見てないやつをちょいちょい見ていく予定。第1弾がこちら。最近また何作か見直してて、この監督の作品は、切たる思いがオーケストラのように高まり、クライマックスで爆発するのがたまらなくハートに染みる、すばらしく叙情的なのばかりだなぁと、感じているのだが、本作はまさにその典型であり、頂点のような作品だった。神奈川県の田舎町、とある女性の殺人と死体遺棄の容疑で19歳の男子が逮捕され、裁判で審理が開始するところから始まるんやけど、まずこの冒頭で驚かされる。検事が起訴状、公訴事実を難しい言葉で延々と述べていき、引き続き証拠調べを、こちらもまた延々と難語を交えて述べていく。法廷に出席している人々の表情を次々と映しながら切り替わる映像に、事件に関連する場所の静止画が挿入されながら、ただただ言葉が流れていくこのシーンは、おっと?こんなハードな法廷劇についていけるかな…と不安だったけど、監督の技なのか、20分くらい続くこのシーンも後半になると、まるで自分も裁判に立ち会っているかのように、事件に吸い込まれていく。そして、その後、証人たちが順番に呼ばれては証言台にたち、淡々と証言を行なっていく。俳優の巧みな演技と淡白な映像と編集のテンポによって生まれる独特の緊張感がすばらしく、田舎のひねくれ婆さんのユーモアも交えながら、事件の真相が炙り出されていくプロセスはめちゃめちゃ面白い。事件の内容にほぼ触れずにこんなに書いちゃいましたが、もうちょい書いときます。19歳の上田宏という青年は、本件被害者ハツコの妹ヨシコを妊娠させてしまい、ふたりで家出を企ててるのを、子どもは堕ろせ、やめておけ、とハツコに止められ、親にバラすぞと脅されたために殺害したように思われたのだが、様々な証言から、少々違った事実が浮かび上がってくる。これが、キっツい。あまりにもキツい。その人の辿った経緯を追って考えると、何もかもがつらい。何にも悪いことしてないし、頑張って残酷な運命に逆らおうとしただけなのに、何でこんな仕打ちを受けなければならないのか。その人が思いつめた果てにとった最後の行動が、やるせなさ過ぎて、思わず、うわああああああああああ!!!と叫び声を上げてしまいました…。人間の宿命とはかくも厳しいものか。誰しもが、自分に何かできるなら何とかしてあげたかった、と思うことだろう。現実にもこういう人って結構いるんだよな。田舎にはきっともっと多いんだろう。そして、おぼこい顔したあどけない人が、実は一番強かだったりするんだよね。それにしても野村芳太郎は何でこんな話ばかりを映画にし続けたのか。とても気になる。運命や状況の犠牲者たちに大いなる同情心を持った、優しくて厳しくあたたかい人だったんだろうな、と勝手に察しております。最後に、素晴らしき俳優さんたちに触れておきたい。本作の核を成す大竹しのぶ、松坂慶子、渡瀬恒彦の演技! お三方とも凄まじい存在感! 証言台で大竹しのぶの激昂、セックスよ! 松坂慶子の悲痛の笑顔、渡瀬恒彦のチンピラの色気、そして、裁判官を演じる佐分利信の滋味あふれる演技、声、台詞回し! 脇役もみんな素晴らしい! これぞ最高クオリティの日本映画! 是非また見たい!
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