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にっぽん昆虫記のRのレビュー・感想・評価

にっぽん昆虫記(1963年製作の映画)
4.8
2回連続で見ました。正直1回目見たときの苦痛といったら半端じゃなかった! 前半、とにかく登場人物たちが何を言ってるんだかまったく聞き取れない! これは、東北弁だろうか? 言ってることが分からんから、どの人物がだれで、何をしてるんだか、何が起こってるんだか、さっぱり頭に入って来ない。さらに、かなり長い年月に及ぶストーリーで、時制が飛ぶたびに年号が出てくるんやけど、それがまた元号という……💦 大正何年とか昭和何年とか言われてもまったくピンとこねー。やれやれ、これは大変な映画を見始めてしまった。見始めたのを途中でやめるのは好きでないので、最悪やったーという感想を残すためだけに見通そうとしたのだが、なんだかんだで後半は半分くらい内容が理解でき、理解できたところだけ考えても、なかなか興味深い。だれが重要な人物で、どんなことが起こったかもだいたいわかったので、もう一回見たら楽しめるかも! と思って見なおしてみたら! めちゃくちゃおもしろいじゃないすか! テーマ自体はめちゃめちゃヘヴィーで、人間として生を生きる苦しみ、そのもの。それが、ある女のあまりにも不如意な一生を通して描かれる。強引なほどのハイチャージなエネルギーで、ぐいぐいテンポよく、ブラックユーモアをふんだんに盛り込んで描かれるため、あれよあれよと引き込まれ、引っ張りまわされ、終わるころには何とも言えない逞しさと虚しさを感じる。この後味はあまりにもユニーク! ぜひとも多くの人に見てもらいたい! というわけで、自分のための記録、兼、これから見る人が一回目から見やすく見れるように、重要なポイントを述べておきたい。まず、冒頭、辺鄙なド田舎のおうちで、ひとりの女が出産をしている。夫である男は、おれの子だ……と喜んでいる。生まれてきた子、松木とめが、本作の主人公。地方なまりのため、一人称が「オレ」なので、幼少期は男なんだか女なんだかすら混乱し、 「オレ、お父ちゃんと寝てるから、夫婦だな!」と父ちゃんに言ってて、普通に男の子が言うてんのかと思ったわ! ゲイなんかな!と笑 で、時は過ぎ、そこそこの年齢になって、とめがだれそれのところに嫁ぎに行く、みたいな話があがり始めたときですら、いまだ父ちゃんと床を共にしてて、ケガして膿んだところを父ちゃんがちゅうちゅう膿を吸い出してるシーンがあったり、そして、その後、どこぞの男(←2回目でも誰なのか理解できず、なんか地元の重要人物?)に「戦争で兵隊にとられてまうからその前に……」てなノリで強姦され、のぶ子(←のちに超重要人物となる)という子を産み、のぶ子があまり乳を吸わないから、乳が張って痛いわーと言って、父ちゃんに乳を吸わせたりする。ふーむ。さすがに昭和初期と言えど、近親相姦的な匂いが強すぎるよね? とめと父ちゃんはこんな風に切っても切り離せないくらい仲良しなんだけど、勤めてた工場の若旦那(?)に手を出されて捨てられたのち、家族の借金を返さなあかんから、というので、泣く泣く父ちゃんと別れ、都会に出て、まず、とある一家のハウスメイドになります。そこの奥さんは、ジョージというアメリカ人の旦那とファックしてて、その声を盗み聞きしながらはぁはぁ興奮して目を離したすきに、そこのお嬢さん、ぐつぐつ煮立ってた鍋を自らのボディーにひっくり返して、おっちんでしまう。自分の欲のせいでお嬢さんを殺めてしまった悲劇に耐え切れず、浄土会という新興宗教団体に所属し、涙を啜り上げながら懺悔を行う。そこで出会うのが、その後とめの雇用主となる、もぐりで売春斡旋ビジネスを運営するやり手のおばはん…名前忘れてもーた。というわけで、とめは晴れて春を売る女となるのであるが……という流れで、ここまでの流れさえつかめば、あとはそのまま流れに任せて理解できるのではないでしょうか。本作で非常に興味深いのは、とめの人生が、日本の激動の歴史を背景に描かれるところ。とめが序盤で務めた工場は、大戦で戦うお国のためであり、工場で聞いた放送は天皇が敗戦を伝えたものだった。ジョージというアメリカ人は敗戦後日本を統治したアメリカの兵隊さんだろう。敗戦後の凄まじい生活苦を経験する国民に現実逃避させることでお金を稼いだ新興宗教の数々。戦後、非合法化した売春ビジネス……そして、その後も、安保闘争、日本国憲法公布、カスリーン台風の大水害などなどを経ていくのであるが、その間に、気が優しく健気で純粋だったとめが、全く別人に変貌していく、その様子を、並みならぬ女優根性で体現した主演の左幸子の演技が衝撃的で全身しびれた!!! 特に、終盤、娘ののぶ子が、とめのパトロンだった男と関わり始めてからがすごすぎた!!! 老いて朽ちてみすぼらしくなり果てたとめが、人生のあまりの苦悶に耐え切れなくなって、頭を掻きむしりながら、ブチ切れ、うめいて、わめき散らす惨状は、もう見てられません。それとは対照的に、したたかに淡々と生きるのぶ子……てか、のぶ子のひさびさの登場シーン、ヘアスタイルがおもろすぎて爆笑してもーたわ🤣🤣🤣 男って時代によってそんなに印象が大きく変わらんねんけど、この時代の女はすごいっすね、しゃべり方から、顔面の印象、何から何まで現代とまったく違う。特にこの映画においては、男と女の与える印象にそんなに差がない気がしたなー。現代の女の方が女らしくなったというか。可愛いものになりたいとか、可愛がられたい、という欲求がベースで、男の視線におもねって振舞うようになってる気がする。あと、メイクしてなければ、男と女ってそんなに顔面の雰囲気変わらないんやろーな。アジア人はとくに。時代によって変わると言えば、罵り言葉もすごくちがう。現代においては、クソとかカスとかザコなどという言葉が多用されているが、本作で出て来る罵り言葉は、「鬼!」 とか「何がおかしんだこの山猿!」 とか。いまの時代にこんなこと言ったら、笑われてしまうんじゃないでしょうか。時代の差がおもろい。あと、のぶ子が、尿意を催して野しょんするお母さんに、「しょんべん垂れんのか!」って言ってるのも爆笑🤣 のぶ子いろんな意味でキャラ最高すぎたわ笑 ということで、最後に、タイトルの『にっぽん昆虫記』、これって当時のにっぽんの女を昆虫に比喩しているということなのかな。本人は一生懸命働いて何とか思い通りに生きられるようにサバイブしようとしてるけど、時代や自然や男の欲望など外的要因にさんざん振り回される、そして、自分の産み落とした子らは、自分が彼らを育てた苦労なんて半分以上お構いなしで、自分のサバイバルに必死である。当時の女性はほんと大変だったんですねー。現代の女性はこんな目に遭う必要がなくなって、いい時代になりました。って言えるといいんですけど。現実はどうなんでしょうか。それを考えてみるために見てみても面白いかもしれません。
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