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ベルファストのRのレビュー・感想・評価

ベルファスト(2021年製作の映画)
4.6
結構賛否両論あるようですが、僕的には賛!でした! めっちゃステキな映画やったし、最後、自分の過去を思い出して、胸が締めつけられた。それは後ほど書くとして、本作のタイトル、ベルファストとは、北アイルランドの町で、主人公はこの町に暮らす9歳の男の子バディ君。町全体がみんな顔馴染み、互いのことをまぁまぁ知り合ってて、親族の集まりみたいな雰囲気。バディくんはそこでみんなに見守られながら、健やかにすくすく育っている真っ最中。家は貧しく、借金もかなりあるようで、父は大工さんとしてロンドンに出稼ぎに行き、時々ベルファストの家に帰ってくる。母はベルファストで子育てと借金返済のやりくりに苦労しながら暮らしている。ものすごく美男美女のカップルでありながら、やっぱ結婚・子育てとなるとお金の問題は大変……まぁ結婚って何より先に経済ベースのつながりやもんね……さて、バディ君は同じクラスの成績上位の女の子キャサリンに初恋を経験中。その相談を、近所に住む父方の祖父に相談し、算数の勉強で追いついて、成績順で並ぶ教室でキャサリンの隣の座を狙う。なんだかんだ平穏な暮らしを営んでいる彼らをとらえるきれいに整ったツルツルのモノクロ映像の、どことなく箱庭的ヴィジョンが、言うてしまえばあざといともとらえられるでしょうが、僕としてはものすごく好かった! すべてのショットが丁寧に作り上げられ、だれが見ても理想そのもののような幼年期! イイ! イイよ! と舌鼓を打ちながら喜んでましたが、その街に、恐ろしいことが起こり始める。武装したプロテスタント系の集団が突如として現れ、カトリック系住民の家を襲撃しはじめる! 初めてそれが起こるシーンの演出、ただ立ち尽くして見つめるしかできないバディ君をぐるりと映し、吸い込まれるように襲撃を目撃する姿! 恐ろしき暴徒と化した集団は、次々に破壊行為を行い、なんとかその場から我が子を引き離す母。北アイルランド紛争の幕開けです。それまでは宗派とかほとんど気にすることなくピースフルに暮らしてきた人々の間に分断が生まれる。バリケードがはられ、軍隊が配置される。町は打って変わって物騒になってしまった。バディのパパは武装集団のリーダーに仲間に入れと勧誘されるが、断ってロンドンへ出稼ぎに。パパは、不安の中で暮らす妻に、みんなでロンドンか、シドニーか、バンクーバーへ移住しようと提案するが、こんな住み慣れてみんな知り合いの町を離れることなんてできない!と頑なに拒絶される。そんな二人のコンフリクトを横目に見ながら、好きな女の子へのお近づきについて祖父母にアドバイスを求めるバディ君。そうなんですよね。子供のころって、大人の間で起こってるいざこざに気づいていながら、子どもの世界とはかけ離れたところで起こってるみたいに感じられ、そこまでリアルに自分事に感じられない。もしかしたら、そうなるように自分の意識を別のところに向けてるのかもしれない。僕もめちゃくちゃこんな感じでしたわー。懐かしくて心が痛かった。というわけで、紛争はあくまでストーリーの背景として存在し、常に前景の少年のストーリーの奥行として描かれている。その塩梅が素晴らしかった。この映画が、紛争の悲劇だけを描いた痛々しい映画でないことは本当によかった。何よりすごいのがバディを演じる子役ジュードヒル君の目を見張る演技力の豊かさ! 特に、数少ないカラーのシーンである映画館と劇場を見つめる彼の瞳の感動的なこと! 涙が溢れるわ。僕も、いまも変わらず、純粋に映画の世界に圧倒され続け、彼が見つめるようにスクリーンを見つめているはず🤣 知らんけど。あと、忘れてはならないのが、全編そこここに流れる数々のヴァンモリソンの歌! 最高っす! 特に、序盤、美男美女の両親が路上でノリノリでダンスするシーン、そして、終盤、こちらはモリソンではないが、お爺ちゃんの一件の後、再び両親が踊るシーンを筆頭に、とにかく音楽も非常に印象的に使われていて、以来Youtubeで何度か聴いたりしてます。さて、本作はバディとお爺ちゃんの関係がポップにハートウォーミングに描かれるのでありますが、僕にとってはおばあちゃんです。うちの家族は、僕の幼い頃、祖父母のうちに住んでいて、僕はものすごくおばあちゃんっ子だった。いつも愛に溢れ、優しく、絶え間なく可愛がってくれた。2歳の時から一日一個毎日欠かさず漢字を教えてくれたり、一緒に日本舞踊をして何度も舞台を共にした。いつも一緒で、とても仲良しだった。小学校1年の終わりに、僕の家族は県の都市部へ引っ越すことになった。引っ越しの準備が終わって、祖父母の家を出て行くその前に、「小さい部屋」と呼ばれるおばあちゃんが寝起きしてた部屋に、その日体調をくずしてたおばあちゃんに最後の挨拶に行った。おばあちゃんの手が僕の小さい手を撫ぜながら、また遊びにおいでよ、と言われ、なんだかこっぱずかしいのと悲しいのとで、不愛想に、うん、とだけ答えて出ていったように記憶してる。もちろん、おばあちゃんとはその後、何度も会って、話して、一緒にご飯食べたり、いろいろあったけど、幼心に感じることがあったのだろう、あの日の記憶だけはすごく鮮やかに残っている。そのことが最後の最後に胸に迫ってきて、涙がこぼれました。何たる思い出。何たるスライスオブライフ。胸いっぱいで言葉が詰まります。どうしようもなく体がうずうずするこの感じは何なんでしょう。人間ってほんまに不思議な生き物や。こんな遠くの映画を見て、こんな気持ちがよみがえるだなんて。
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