ハター

オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴのハターのレビュー・感想・評価

3.7
現代を生きる吸血鬼の恋愛映画とは眉唾な謳い文句だけど果たして、と思いつつ蓋を開けてみるとなんともかっこいい映画でした。
衰退し行くデトロイトの寂れた姿は21世紀を退廃的に生きる吸血鬼の像に調和し、それとは対称的にエキゾチックな空気を醸すタンジールの艶やかさ。この特異なロケーションが作品のテーマを活かす重要な基盤となっている気がします。吸血鬼の表現として強く感じたのは眼力。ティルダ・スウィントンの人間離れした美の裏に感じるフォビア。うってつけの役柄でしょう。
そして今作品の主要演出と言える音楽へのこだわり方には触れざるを得ません。”吸血鬼映画=Soul Dracura”というベタベタな図式をスタイリッシュに魅せてきたのはある種マジック。Wanda JacksonやCharlie Feathersといったカントリーサウンドが、現代に対して後ろ向きなスタンスを見せる作風の味として妙な程に生きています。またSuproやSilvertoneといったオールドギターの象徴と言える楽器をフィーチャーしているのもマニアック。総体的に見ると50~70'sにフォーカスを絞っている点に、作り手の趣味がさほど捻りもせずに現れています。デトロイト出身でSuproギターの使い手でもあるJack Whiteの名前が台詞に出てきたのは最早必然。懐古を好むアナログ志向人間のイタズラがそこかしこに垣間見え...とにかくもう、愉快なのです。
また、時折訪れるノイジーなシューゲイズサウンドでエロティシズムを演出。ユーモアのテンションも腹這いのごとし。クラシック音楽家に楽曲提供をしたという件のシュールさたるや。どこを取ってもいちいち洒落ていて、私のような懐古主義の人間にとっては目にも耳にも楽しい事の連続。もう終始、高揚。ありがとうございました。
ハター

ハター