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愛の新世界のninjiroのレビュー・感想・評価

愛の新世界(1994年製作の映画)
3.9
路傍の花の揺れるが如く、記憶の中に愛はそよぐ。咲き誇る花、競って訪う働き蜂はその足で愛の記憶を伝達して、忙しく働く雌、惰眠を貪る雄、それぞれの存在する意味を確認するように、包み込む世界を丸ごと愛して受け入れる。生きとし生けるもの全ての命には必ず源があって、同じく誰にでもそれぞれに世界の中心は存在する。

青い空間、記憶を無くした迷い娘のように、この体重は浮かんでは向かう宛てもなく、どこかで昔見たような、宇宙遊泳なんかしたことない、この先するってこともないだろうけど、きっとこんな感じだろうって生きていける。ハウリングの音で目覚めて、BPMに揺られて、沸騰した呼吸の音をきっかけに、花もない街に放り出されたら、そこは琥珀色に眩しく輝いていて、目隠しの下からも真っ暗なんかじゃなかった。迷ったら見付けて、いつも聞くカラスの鳴き声がこんなに違って聴こえるから、ハイヒールの踵を叩き折ったなら深呼吸をして、大きな鯨になって飽きることなく水飛沫を上げながら、私達は並んで途方もなく広大な海域を泳ぎ続ける。深く深くに潜った先の暗い色の水も、風に飛ばされて今は水面に揺れる傘も、きっと産まれて初めて見る物もこんなにもじんわりと懐かしくて、壊れないようにあの蜂蜜の甘さを思い出すんだ。
遠くから潮の匂いがするようで、もう今すぐにでも素っ裸で寝っ転がって大声出して笑って、見渡す限り一面の砂粒に塗れては波に戯れ洗い流し、いくら確認したって仕様のないことだと分かっていても、生きてることを誰かに許されていたい、いつでもそう思ってしまうんだ。
いつまでも思い出す為に今があるとしたら、それはすぐに過ぎ去っていってしまうから、心は構わず明後日の方向へ向けて走り出す。準備はもういつだって出来てる。愛よ急げ。
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