レンタルにて鑑賞。
石井監督の演出は、手堅いと言えば聞こえはいいけど、それほど技術的には飛びぬけてすごいことをやっているわけではない。ダサくも思える。
登場人物が話し合っているところを少し距離をとって写すところなど、「これはカメラが撮影していますよ」ということを否が応でも意識させられる。
けれども、そういった手法は決して悪いばかりじゃない。少なくとも、僕はこの映画を技法的な欠点で持って切り捨てられるほど非情にはなれない。
正直に言うと、これと似たようなことは自分の家族にも起こったことはあるし、これからだって起こる可能性も、ある。
そして、家族の中で長男である自分にとって、本当のことを言えず抱え込みやすい妻夫木聡は、他人とは思えなかった。
キャストはどれも素晴らしく、特に一目見るだにいい母親だと思わせられる原田実枝子は実在するとしか思えなかった。ちょっと自分の母親を重ね合わせたりした。
そして、やっぱり自分の家族について考えてしまう。そもそも、血縁でもって同じ屋根の下で暮らしていて、それで「家族」は成立するのか。「家族」とは実態のないものを守り続けることではないのか。
お金もそうだ。こういった難病を取り扱った話では無視されがちなお金についてもきちんと描写しているところがぐっときた。
実のところ、この映画は石井裕也監督の集大成のようなところがある。
逆境に次ぐ逆境の末に吹っ切れて再起するところは『川の底からこんにちは』を、周囲の人の利害を超えた手助けを描くところは『ハラがこれなので』を、そして全体的な構造が『あぜ道のダンディ』をなぞっていると感じた。
序盤は、あまりにも自分の身に起こったことを思い起こさせて観ているのがつらかったが、終盤はずっとぐずぐず泣いていた。特に、それまでクールに見えたあの人物が泣くところなど。
そしてラストまで観た後に改めてポスターを見て落涙。