Qちゃん

her/世界でひとつの彼女のQちゃんのレビュー・感想・評価

her/世界でひとつの彼女(2013年製作の映画)
3.5
音声AIに恋する男の話って聞いて、相当フェティッシュなコメディかと思いきや、随分と繊細なお話だった。

自分の一部のような存在を失うことになって、全てに感情的に不感症になっていた男が、肉体を持たないAIとの交流の中で、心を動かし「感じること」を取り戻していく。

その過程そのものは美化して描かないで、あくまでも良心的で平凡な普通の男が、未練たらたらの離婚で大傷心の中で、振り切って健全な関係を築きたい訳じゃなく、心と体の寂しさ両方埋めたいだけな様子も出すし、AIとの関係性の発展の過程も、比較的早く生々しい所にも到達する。

でもその途中、またその後の、少しずつ変化していく心の機微が、主人公の浮かんでくる言葉や気配の違いで細やかに描かれていて、見ていて綺麗。

ホアキンフェニックス演じる主人公、見た目もウジウジしすぎなところも全然好きにはなれないんだが、彼の紡ぐ言葉の繊細な感覚は、みんなが感動するのが分かるレベルで美しい。朝焼けのLAの街並みや雪の森、煌めく海、都会的で洗練されたオフィスやAIのあり方といった映像もさることながら、この映画に感じる美しさは、結構彼の言葉に負うところも大きいと思う。

あと、身体がなくて写真が撮れないから、2人の関係を音楽にするっていうAIのセンスと、これまた作曲センスの良さが素敵。

舞台が思ってたより近未来的で、かなりSFチックな進んだ自我的AIになってることもあって、相手がAIといえども、肉体がないだけで恋愛の紡ぎ方もまるで人間と変わらない。

ただ、身体がないことへのAI側のもどかしさ(この辺がほんと現時点のリアルのAIとSFの差だよね)や、驚異的な速度で進化して違う世界を生きる、人間との明らかな違いも突きつけられたりして、主人公の心に色んな方向から新しい感情や感覚を呼び覚ましているのが新鮮。

でもさ、映画から離れて事象だけ見ると、買ったはずのOSがあんな顛末になったら、大規模なクレーム発生する大事故ですね😅あと、ボロクソ罵るけど寂しがりなゲームAIも、ウケるけど、なんか哀れで離れられなくなって、これ普通にゲーム依存症になっちゃうって。。
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