JunIwaoka

グランド・ブダペスト・ホテルのJunIwaokaのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

2015.9.27 @ シネマキャンプ アフターパーティ (なんつって〜)

4回目の鑑賞でやっとこの映画の魅力を理解出来た。ウェス・アンダーソン作品というとポップでキュートな色彩や構図に、コミカルなカメラワーク、捻くれた愛くるしいキャラクター、シュールなセリフ、親子や純粋な恋心など普遍としたテーマで、これを暴力的に言えば独特な世界観と分かりやすいテーマというところに大きな魅力があるのかと思う。今作は構成を複雑にしていて、結局なにを語りたかったのかよく分からなくて消化不良というのが初見の印象だった。映画好きな友人の評価が高くて再見したところ、グスタヴとゼロの親子関係にも近い師弟関係に感化されたけれど、解せなかった作家によって書かれたストーリーという点が今回腑に落ちた。
改めて見るとグランド・ブダペスト・ホテルはゼロが追憶する象徴的な存在であって、全てはアガサのためにということが感慨深い。それは天涯孤独なゼロがアガサとの真の愛情を通じて家庭を持つことができた幸福な時間であって、その刹那は埋めることが出来ない喪失感。グスタヴの虚栄心でもあるグランド・ブダペスト・ホテルのあの狭い部屋にとどまるのは、結局ゼロもグスタヴのようにただの寂しがりやとなってしまう。時代ともに斜陽していくなかで、価値のある絵は誰も気にも留めず、華やかさで満たされていた愛情は空虚になってしまうけれど、過ぎ去る時間の中にあった物語は失ったものを思い起こさせる。だからゼロが語る話のなかで、吐露する心情を作家がこの物語にして現代まで読まれ続けるというオープニングには、インスパイアされた作家や、ウェスをはじめとする彼らのような映像で語る作家に対して多大な敬意を込められているように感じた。
新たにヨーロッパを舞台にして複雑で不条理な歴史的背景を交えながらも、彼のユニークな世界観のままサスペンスともコメディともとれるポップな作品に作り上げていることは改めて感嘆させられた。昨年のベスト映画に入れてもよかったな。
JunIwaoka

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