ミーハー女子大生

WOOD JOB!(ウッジョブ)神去なあなあ日常のミーハー女子大生のレビュー・感想・評価

4.5
大学受験に失敗した都会育ちの軟弱な青年、平野勇気が、 パンフレットの美女につられて踏み込んだ林業の世界。
そこで、さんざんな目に合いながらも、仕事の大切さや、自然の魅力、 そして人とのつながりに目覚めていく姿を笑いと感動で彩った物語。

同じ国で、同じ時代で、こんなにも違う生活があるのか… と、軽く茫然としながらも、 ハラハラ、クスクス、ニヤニヤ、ケゲッ!、そしてジーンと、 さまざまな感情をくすぐられ、 気が付けば、自分も山の生活を体験したかのように 神去村のペースに巻き込まれていたのだった。

「主人公の成長もの」というコンセプトは、決して珍しくはないけれど、 この作品を「あー、楽しかった!」と存分に味わえたのは、 矢口史靖監督が手間暇惜しまず、丁寧に、綿密に、 そして大胆に作り上げてくれた「舞台」があるからだと思わずにはいられない。
季節の移り変わりを表すために、植物の成長を早送りで見せたり、 ヨキが家から走り出して、トラックに飛び乗るまでをワン・カットに収めたり、 数十メートルもある杉の木を根元から頂上までなめるように映したり、 良く考えれば、これは大変な撮影だったんじゃない!? というシーンは数々あったし、 俳優の体にカメラを固定して周りの風景だけが動くという撮影も面白かった。
でも、それらすべてをサラッと物語の中に組み込み、 飄々とした姿勢を崩さない矢口ワールドが、とっても好きだ。

監督は、三浦しをんの小説「神去なあなあ日常」を読んで、 「これはぜひスクリ-ンで見たい。僕じゃなきゃヤダ!」 と思って映画化に取り組んだそうだ。
その強いモチベーションが、作品の隅々まで行きわたっている。

三重県の山奥で9カ月もの取材を敢行。
「CGや合成を一切使わなかった」という撮影によって、 山の緑や林業の仕事、村の生活が、生き生きと描かれていたし、 クライマックスの「祭」のシーンは、本当に圧巻で、 JNN各局のアナウンサー8人を含めた(←これちょっとびっくり) 1600人ものふんどし姿のエキストラが、熱気と迫力ある映像を作り上げていた。

そして、秀逸なのはキャスティング。
ヘラッとした笑い顔も魅力的な染谷将太は、軟弱な若者から 山の男として、人として、成長していく勇気を見事に演じていたし、 野生児のような伊藤英明もピッタリの役だった。
ちなみに監督は、オーディションで染谷将太を勇気役に即決したそうだが、 彼の出演作は見たことが無かったという。
最近になって「悪の教典」を見たら、 「伊藤君と染谷君がすごいことになっていて…」と驚いていた(笑)

そして、勇気が思いを寄せる女性、直紀役を演じた長沢まさみは、 この作品の為に大型バイクの練習をして乗りこなしていた上に、 優香や西田尚美とともに、荒っぽいけれどカワイイ村の女になり切っていた。

役者さんたちは、ほぼすべてのシーンを吹き替え無しで撮ったというから、 現場は、そうとう過酷だったと思うけれど、脇役の俳優さんにいたるまで、 そんな苦労はみじんも感じさせず、終始軽快な乗りだったのもすごいと思う。

携帯はつながらない、コンビニもない神去村。
ヒルやマムシに襲われ、危険極まりない山での生活。
でも、木を植えてくれた100年前の人々に感謝し、 苗を植え100年後の人へ想いを託すという 林業の仕事のスケールの大きさに胸を打たれ、 樹齢数百年の木が倒れ行く姿を、神妙な気持ちで見守った。
そして、圧倒的な力を感じさせる「山の神」への信仰心が自然と湧いてくる。
そんな山の生活を、面白おかしく描きながら、 キラリキラリといくつもの宝石をひそめた、 矢口監督快心の一作だと思う。

ストーリー 4
演出 5
音楽 4
印象 4
独創性 5
関心度 4
総合 4.5

128/2022