Natsuクルーズ

オー!ファーザーのNatsuクルーズのネタバレレビュー・内容・結末

オー!ファーザー(2013年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

「あのな、ギャンブルもおんなじだぜ。負けたら負けたでどうにか楽しめるもんなんだ。選挙だとか政治に躍起になってる奴らはいかさま使ってでも勝ちたがる。負けを許容できない奴らってのは、一番品がねえし、何より男じゃねえ。」




「血の繋がりなんかどうでも良い」という『そして父になる』級のパワーに溢れている。

しかも説教臭さは微塵もなく、4人も父親がいるというぶっ飛んだ「境遇」がどんどん羨ましく思え、「大人」や「父親」ってカッコイイと素直に思えてくる究極の育児映画。

主人公の男子高校生には、悟・鷹・勲・葵という4人の父親がいる。

母親が4股をしている時に妊娠し、誰の子供か判らなかったので、4人の男と1人の女は「みんなで育てよう」と一致団結し同居を始めたのだ。

それぞれの父親はみな同じく息子を溺愛し、息子は4人の父親から4通りの「人生哲学」を教わり、4通りの「愛」をもらい、4人から守られているという、4倍の「安心感」と「心強さ」と「自己肯定感」を持てているのだ。

ギャンブルのプロ、スポーツのプロ、学問のプロ、女性の扱いのプロ。

幼い頃から刷り込まれた父親4人の「教育」や「教え」が、いろんな人生のターニングポイントで主人公の頭にフッと浮かびあがる。

その瞬間が伊坂幸太郎作品らしく、とても素敵。

「血」よりも濃い家族の在り方がここにはある。

ある街のある日、主人公の周りで数々の出来事が動き始める・・・。

悪友の危険なバイト、夜な夜な家の前を通る不審な車、男に酷い扱いを受けて泣く女性、盗まれたカバン、仲の良かった同級生の不登校、街のフィクサーがハマったらしい振り込め詐欺、不可解な心中事件、熾烈化する知事選挙・・・。

主人公はその様々な出来事に遭遇し、それらの伏線が一つずつ結びついていく。




「努力で答えが見つかるなんて事はそうそう無い。答えや正解が分からず、煩悶しながら生きていくのが人間だ。そういう意味では、解法と解答の必ずある試験問題は貴重な存在なんだ。答えを教えてもらえるなんて滅多に無いことだ。だから、試験問題には楽しく取り組むべきだ。」




『アヒルと鴨のコインロッカー』、本作と同じく「家族と父と息子」というテーマを含んでいた『重力ピエロ』以来3作目の伊坂作品となった岡田将生。

彼は、20代でありながら相変わらず10代特有のナイーブさ繊細さの演技と雰囲気が素晴らしく、カラッとしたキャラで可愛い忽那汐里演じるガールフレンドとの絡みも「温度差」が微笑ましい。

そして何と言っても「4人の父親」を演じた佐野史郎・河原雅彦・宮川大輔・村上淳。

その四者四様の個性が素敵過ぎる。

キャラの立ち具合も抜群で、それぞれの父親から教わった事がそれぞれの場面で活きてくる。

『チルドレン』や『ポテチ』から『死神の精度』まで、幅広い「奇抜な設定」とリアリティーとファンタジーの絶妙なバランス感覚が本作も健在。

この感じは伊坂幸太郎の映画化作品の中でも最高傑作である『フィッシュストーリー』の「素晴らしき人生」な感じ、ちょっとした「運命のファンタジー感」を思わせ、グっとくる。

伊坂本人が本作の映画化の際に提示した唯一の条件「ただただエンターテイメントに徹して欲しい。」が見事に炸裂し、夢の様にキャラクターと世界が輝いている。

こんなに「この世界をずっと観ていたい」と思えたのは『ゴールデンスランバー』以来で、クライマックスになるにつれて泣けてくる。

既存の「ありきたりな愛」ではない「新しい愛」の形。

それもアリだよ、と思わせる説得力がある。

そして、恐らく誰もが4人の男を虜にできる「母」の姿を見たくてたまらなくなるのだが、「マクガフィン」の様に最後まで登場しない点も良い意味でモヤモヤさせられて巧い。

つまり物語の後、自分が新たな「5人目の父」の様に、完全に彼女の虜になっているのだ。

オー!マザー。




「でも、いつかはみんな死んじゃうんだよな。悲しみも4倍なのかな・・・。」