Natsuクルーズ

寄生獣 完結編のNatsuクルーズのネタバレレビュー・内容・結末

寄生獣 完結編(2015年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

「地球上の誰かがふと思った《人間の数が半分になったらいくつの森が焼かれずにすむだろうか》地球上の誰かがふと思った《人間の数が100分の1になったら、たれ流される毒も100分の1になるのだろうか》誰かがふと思った《みんなの未来を守らねば》」




前編・後編共に《我が子への愛》という普遍的な深い感情を主軸として描いてあり、数々の場面で心を打たれた。

同時に、自らの命よりも愛する存在を守る事を優先する《利他的》そして《笑う》という人類特有の感情の素晴らしさに改めて気付かされ心が震える。

本作は《人間とはどういう生き物か?》そして、立場によって大きく変わる《正義とは何か?》、《善と悪の境界線とは?》という根源的なテーマをエンターテインメントの中で見事に描いている。

食物連鎖のトップにいる人間の立場が、あっけなく覆されそうになった時、我々人類は捕食者に対して何を思うのか。

《悪を滅ぼす》という名目で相手側に全面戦争を仕掛けるのか、友好的な《共存》を模索するのか。

もちろんお互いが《正解》を見失い、共倒れする可能性もある。




「我々はか弱い。それのみでは生きてゆけないただの生命体だ。だからあまり虐めるな。」




本作は、第1部『寄生獣』、第2部『寄生獣/完結編』という2部構成の作品で、岩明均の同名漫画を原作とする実写の日本映画。

山崎貴監督とも親交があり、Mr.Childrenの桜井和寿がプライベートでも熱心に聴いて歌い「メンバーに入りたい」とまで発言している《BUMP OF CHICKEN》の書き下ろし楽曲が前編と後編にそれぞれ一曲ずつエンドロールで流れる。

『弱者の反撃』という意味を持っているバンド名も、偶然にも本作のストーリーにリンクしている。

原作がある作品の映画化に携わる事が多い山崎貴監督は、自分の個性や作家性を作品から消す事を常に意識しているそうだ。

確かに、前作『永遠の0』と今作『寄生獣』は特に、原作のエッセンスを驚くほど巧みに取捨選択し、大筋はとても原作に忠実に、そして徹底的にリアルな美術とVFXで見事に実写化している。

左右の眼球が別々に動き出し、顔面に切れ目が入り、それが花びらの様に広がり中から別の眼球と歯が現れ、触手の様に伸びた《刃物》が高速で周囲の物を切りつける・・・という原作漫画で有名な悪夢的表現が《現実》のように実写で目の前に現れた時の衝撃と感動、そして恐ろしさはとても忘れ難い。

実写版『トランスフォーマー』の変身プロセスの様に緻密に計算されデザインされている事が判る。




「悪魔というのを調べたが、一番それに近い生物は、やはり人間だと思うぞ。」




キャストも日本映画界を代表する豪華なアンサンブルがとても素晴らしい。

《母》への深い愛情で心を強くも弱くもし《愛され守られる者》から《愛し守る者》へと大きく成長する姿をオンリーワンの存在感で繊細に表現した染谷将太、『ロード・オブ・ザ・リング』『キング・コング』『猿の惑星』などのパフォーマンスキャプチャーの第一人者アンディー・サーキスに迫る陰の立役者となりミギーに命を吹き込んだ阿部サダヲ、パラサイトでありながら徐々に人間性に目覚め段々と《母性》をも持ち始める苦悩と喜びを表情や声のトーンで演じ分けた「もう一人の主人公」である深津絵里、前編のラスト数秒での圧倒的な存在感と後編での圧倒的な強さと貫禄を堂々と演じた浅野忠信、主人公に理性と人間性を保たせる重要な役割を担い物語のテーマである《生命》を表現する為に生々しいベッドシーンにも挑んだヒロインの橋本愛、常に不自然な笑顔を浮かべ恐ろしい豹変を見せる前編のキーキャラクター東出昌大、「ミギーと出会わなかった場合の主人公の姿」という象徴的なキャラクターとして後編の鍵を握る大森南朋、パラサイトと人間を見分ける特殊な能力で「移動スキャナー」として警察に協力する快楽殺人鬼を恐ろしい眼差しで演じた新井浩文、息子を想う優しい笑顔と重い運命を背負う様が泣かせる余貴美子、力強い演説と表情の絶妙な加減が素晴らしい北村一輝、少ない出番ながらも『凶悪』での静と動に匹敵する凄みを魅せるピエール瀧、少しずつ真実に近づいていく人間味溢れる刑事コンビの國村隼と山中崇など、全てのキャストにバランス良く大きな見せ場が必ず用意されている。




「よく笑う、元気な子供だ。」




本作に出てくるパラサイトや人間は「自分の存在理由」を模索し続け悩んでいる。

人間に寄生しなければ生きる事ができないパラサイトの存在理由、そして地球に寄生しなければ生きる事ができない人類の存在理由。

日頃は無意識だった偏った視点や《人類のエゴ》に気付かされハッとする場面が何度もある。

そう、タイトルの『寄生獣』とは、人間の体に寄生するパラサイトを指しているだけではなく、地球上に我が物顔で君臨し、環境を汚染し、自然を破壊し、多くの生物を絶滅に追い込み続けている《我々人類》のことを指しているのだ・・・。




「君の脳を乗っ取らなくて良かった。」