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祖谷物語 -おくのひと-のNMのレビュー・感想・評価

祖谷物語 -おくのひと-(2013年製作の映画)
3.3
祖谷はイヤと読むらしい。ほぼ自給自足の山奥。
囲炉裏、わら笠と蓑、木桶などは昔話に出てきそうな古めかしいもの。
現代めいたものと言えば自動車と洋服ぐらい。

寡黙を通り越してほぼ無言の「お爺」と、彼とは血の繋がらない女の子が暮らしている。二人とも他に血縁はなさそう。

青年が都会からやってきて、近くで畑仕事を始めようとする。ここへは都会からIターンしてくる人からも人気で、にわかににぎわっている。外国人も多い。
一方で、村を出て行く若者たちも。

木々の色が変わり季節が巡っていくのが分かる。お爺もいつまで働けるか分からないし、娘も進路選択の時期が迫る。このままの生活が一生続くわけではない。

この選択は、『もののけ姫』の、お前にはあの若者と暮らす道もあるのだが、というシーンを思い起こした。この都会の青年がアシタカにも見えてくるが、この地は素人が入り込むにはレベルが高すぎる土地。朝晩の寒暖の差が大きく、冬の積雪も多い。小さな土地を耕してはみたがこのアシタカもどきには歯が立たない。
自給自足が難しいとなれば、他のIターンたちもいずれ限界を迎え村を去る。

一体どうすれば……と思った矢先、突然の不思議な夜。ファンタジックだがダークで、何を意味するのかは定かではない。
そして目を覚ますと、まるで長年の魔法が解けてしまったように堰を切って展開が起こる。

それからはまるで夢遊病のよう、明るくて元気だった娘は魂が抜けたように生きている。
こんな風に毎日生きる都会人は少なくないかも知れない。

都会で暮らすのは不自然なことが多いが、田舎なら良いかというとそうではないらしい。人間は一体どう暮らすのが正解なのだろう。

前半はリアルな話だが、後半はおとぎ話の世界に迷い込んだのよう。前半はよく聞く話、後半がこの映画の要だと思う。

BGMが殆どなく吹雪の音ぐらいしか聞こえない。先の展開を予想することができず、些細な雰囲気を率直に感じられる。
夜にゆっくり観るのに向いていると思う。大人向け。

お爺たちが暮らすのは集落がある場所より更に登った山上なので画面はいつも斜面で、畑から見下ろす景色は壮観。
緑ももちろんだが、朝霧のかかった何とも言えない青白い色彩が見事。その霧や吹雪が深くなるとき、人知を超えた何かが起きるようだ。
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