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そんなの気にしないのNMのネタバレレビュー・内容・結末

そんなの気にしない(2021年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

原題の意味は、関係ない、知らない、興味ない、どうでもいい、といったニュアンスのよう。
主人公はそんなやさぐれたような生き方をしているかというと、私はそこまで同意しない。
じゅうぶんちゃんとしてると思う。親友や愛し合う恋人はいないがそれぐらい至って普通だとすら思う。むしろうまくやれてるほうにも。良い意味でその日を精一杯生きている。

仕事はちゃんとやりたい。だが理想の職場ではないし情熱までは持てない。毎日のストレスも大きい。
契約条件も不安定でいつどうなるか分からない身だし、就業規則は厳しくいつ違反してしまうかも危うい。

きっと彼女に共感できるは世界中にたくさんいるはず。

頑張るつもりはあるんだがどうもそれが発揮できる環境ではない。
他へ移れるような自己研鑽の時間も取れない。
仕事が終われば酒を飲みたいし踊りにいかないとやってられない。
休日があれば、寝る。
とても将来設計などできない。

実際私は彼女の忙しさを観ているだけでも疲れてしまった。
彼女がよくペットボトルの水をごくごくと飲み干すシーンが印象的。スポーツのような日々。
頑張ってはいるのに結果が出そうにないところもリアルで切ない。
現実とはこの映画のように、まさに忙しいだけで退屈であり素敵なハプニングなど起きない。
だがその退屈な人生も映画にしてみると案外観られるものになるのかもしれない。

それとこの時はパンデミック真っ只中のようで、降り立つ国によってはみな医療用マスクをしてたり、床にはソーシャルディスタンスのためのスパンを開けたバリが貼ってある。もしかするとそれと、彼女が他人と心理的に一定距離を保っていることを引っ掛けたテーマなのかも。そう言われたところでだから何だとしか今なら思えないが、きっと当時観たらもっと重要な意味を真摯に受け取ったかもしれない。この時は皆、当たり前だったことを改めて考え直す時期だった。

作品としてはフランス映画らしい会話シーンが多く、あまりカットせずたくさん聞かせてくれる。長すぎないし、くだらなすぎないし、ダサい会話もないし重い哲学論争みたいなのものなくちょうどいいごく普通の軽い会話のみ。
誰の心理独白もないし、激しい感情表現もないし、主人公は一人の時はいつも無表情。ダイアログが一つもないことも作品のリアルさを助けている。
個人的にこの手は好みではないはずだったが、これはとてもおもしろかった。ある程度は誰にでも観れるようには作られている。
どうしてもはっきりとした起承転結が欲しいという人、人物のはっきりした感情表現が見たい人にはおすすめしない。

人生思うようにいかないし、人との繋がりもないしもう深く繋がりたいという気持ちすらない。
そのくせ思わぬ悲しいトラブルは起きる。
それでも何とか折り合いをつけて、その日その日をストレスに耐え生きていくしかない、これからも。

情報サイトではコメディにジャンルされているが、少なくともあははと笑うようなシーンはまずない。
この世知辛い世界って笑って生きるしかないですよね、という意味なら分かる。

航空関係や交通機関、さらに忙しく働く接客業全般の人におすすめ。

原題について、例えばムダ毛を処理しない彼女に対して同僚が目立つから剃るように忠告し「そんなの関係ない」と答えるシーンはある。他に、研修でうまく笑顔が作れない彼女に対して、あなたの私生活など誰も気にしない、といった場面など。
それらのシーンがそこまで重大な意味を持つのかはわからない。
あまりにもよく使う言葉なのでどうとでも取れてしまうタイトルだ。
仕事にはやりがいがなくては、良い恋人がいなければ、良い友だちがたくさんいなければ、ステータスのある仕事に就かなければ、エミレーツの子たちのようなインスタを上げなければ、家族と仲良くしなければ、母の死を乗り越えなければ。
そういったことは、自分が思うほど気にしなくていいことかもしれない。流れに任せ、ただ日々を生きてさえいればそれで。そこからどう努力するかは個人の自由。

カサンドラが実家に帰ったときリビングのソファーで寝た。ということは彼女のベッドもしくは部屋ごとないかこの日たまたま使えない状態にあったか。
そして父親はあまり愛想のいい方ではない。ちょっと揚げ足取りだし失礼。実際は情け深く、いざとなれば何を差し置いても家族を優先してくれるはずだ。だがこのタイプとなると家族とは小さな揉め事をたくさん起こしそうな人に見える。
それに彼の会話からして事業はそれほど儲かっているようには見えない。
そんな理由もあって、実家に帰るのは難しいから一人で身を立てなければというプレッシャーもあるのかもしれない。



あらすじ
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カサンドラは、格安航空会社のジュニアスタッフとして約3年働いている。
毎日目も回る忙しさ。給料は高くなく休日も少ない。
家に同棲する男はおり彼の方はカサンドラを好きなようだが、彼女は愛をささやかれても今後のことを深く考えるつもりはない。
ストレス発散は、クラブで踊ったり、SNSで見つけたその晩限りの男とチャットすることぐらい。他の趣味はなく、休日があれば家で寝ている。
実家にもクリスマスでさえ帰らない。最近母が交通事故で亡くなり、しばらくは帰りたくないのだ。
ふいに母の話題が出ると今も涙が流れてしまう。

仕事は本人なりに熱心。眼の前の仕事に全力。
機内では次々とお菓子やカップラーメンを売りさばき、ごみ袋を片手に大急ぎで客席の掃除もする。難しい客の対応も多い。
本当はエミレーツのような優雅なCAたちに憧れている。
制服も、振る舞いも、センスも語学も。
自分にはとても無理だろうから応募しようなどとは思わない。
本来は旅が好きで色んなところに行きたいが、今の会社は決まった場所にしか行けない。ドバイにも東京にも行ってみたい。素敵なインスタを上げたい。

契約満了となったが、ジュニアスタッフのままではくパーサーを目指さないと契約を続けないと言われる。
選択の余地なく承諾、仕事は余計ハードになった。
カサンドラは別に社内で昇進したいわけではないし、キャリアを積んで転職しようとも思っていないところに、現在の環境との不一致がある。
それにパーサーは他にもたくさんいるので、出世と言えるほどでもない。
今までの仕事に加え、パーサーとして仲間のスタッフを評価し、それを上司に問い詰められる。板挟みの立場。

彼女基本的には誰とも問題なく付き合えるが、深い友情までは築かない。
だが多忙なときでも、客に心配りをできる思い遣りがある。
逆に理不尽なクレームを受けたときは感情的にならず心をシャットアウトできる。

あるとき不安で泣いている客に同情してついワインの小瓶を買って渡してやった。
病気で高齢の婦人。母と重なったのだろうか。
するとそれが原因で行き先未定のまま異動処分に。つまり実質解雇。
彼女は時々思い遣りのために自分の状況を悪くしてしまうようだ。上手くやればいいのに、悪いことと思っていないためかけっこう頻発させ隠しもしない。

仲間が自家用ジェットの会社を推薦してくれた。
オンライン面接。
しかしそれは能力とは直接関係ない恋人の有無などの質問ばかり、さらにウェブカメラの前で歩いたりターンしたり。
結果として良い返事はもらえた。近いうちにドバイに来るようにと。
だがきっとここに移ってもきっと前とそれほど変わらぬ職務だろう。彼女の表情は冷静だった。

この機に実家にも帰り、黙って家を出たことを謝った。そして家族も母の死を受け止め始めた。
新しい部屋を借り、ドバイにやってきた。
コロナ真っ只中で、みなマスクをしソーシャルディスタンスを取っている。
これから私の生活はどうなるのだろうか。私の人生って一体。
仕事にやりがいを持てる日は来るのか。仕事って一体。
私にも大事な誰かができる時が来るだろうか。愛って一体。
何にせよともかくここでの新しい生活を始めなければ。
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